いて座
運命のスイングバイ
立ち止まると考えは止まる
今週のいて座は、どんなにハブられても孤独であっても散歩者であれ。あるいは、「立ち止まってはいけない」と自分にそっと語りかけていくような星回り。
フランス革命を大きく後押しした政治哲学者であるジャン=ジャック・ルソーは、晩年に著した『孤独な散歩者の夢想』の中で次のように書いていました。
わたしが集中できるのは歩いている時だけだ。立ち止まると考えは止まる。わたしの精神は足がともなう時だけ働くようだ(今野一雄訳)
これは文字通り日ごろの生活習慣として受け取ることもできると同時に、幼少期から出奔と放浪を余儀なくされ、移動し続けることを半ば運命づけられていたかのようなルソー自身の人生の軌跡を比喩的に言い表したものとして受け取ることもできます。
確かに、好きなところを歩き回る自由を奪われることは、自分の頭で考える自由を喪失することに他なりません。日頃から自身の言動をこまめに振り返る習慣のある人なら、私たちが知らず知らずのうちにみずからの自由をすすんで放棄し、自主的に隷従状態に置かれることを欲する生きものでもあることをよく知っているはずです。
その点、無目的な旅や散歩ひとつとっても、それは普段の生活システムの外へと飛び出してまなざしを反転させ、「外」からその限界だったり不足だったりを明らかにしていく決定的なきっかけとなりうるのだということを、ルソーはよく知っていたのでしょう。
5月8日にいて座から数えて「習慣の力」を意味する6番目のおうし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、誰にも邪魔されずものを考え続けていくだけの精神を担保するだけの運動習慣を、改めて確保していくべし。
リチャード・バックの『かもめのジョナサン』
他のかもめたちは「伝書鳩は飛ぶべき場所を飼い主に仕込まれている」と鳩を馬鹿にしつつも、自分たちが餌をとるためにしか飛ばないことにはったく無自覚だったのに対し、ただひとりジョナサンだけは、「飛ぶ」という行為そのものに価値を見出し、それを純粋に追求していこうとしました。
ただ、じつに奇妙なことに、ジョナサンは「ただ無意味に」飛ぶことを楽しむということの異端さゆえにかもめの群れからは追放されてしまいます。しかしそれでもたった独りで飛行術を追求し続けたジョナサンは、やがて誰よりも早く高く飛ぶことができるようになります。
そしてそれは、かもめとして食うや食わずの生活から可能な限り遠く離れた、世界のエッジにたどり着かんとする試みであり、ひとりぼっちの孤立でもあると同時に、かもめの運命としての制約からの解放でもありました。
今週のいて座もまた、安っぽい義憤を駆り立てられるような悪とよりも、みずからを特定のパターンに規定してくる思考停止とこそ闘っていきたいところです。
いて座の今週のキーワード
「ただ無意味に」飛ぶことを楽しむ