やぎ座
なんとかやっていくために
微妙な年齢感を含ませる
今週のやぎ座は、『中年の華やぐごとく息白し』(原裕)という句のごとし。あるいは、余裕を失うほどに急ぎすぎず、かと言って悠長にたらたらするでもなく、今の自分らしいペースを確立していこうとするような星回り。
寒くなると吐く息が白く見えるが、とくに冬の朝などは自分の息の白さに驚くときがあるはず。とはいえ、はずむように走る子どもの息の白いのはかわいらしく、ゆっくりとぼとぼ歩く老人の息が白いのはどこかあわれさを助長しますが、この句の作者は中年だったのでしょう。
ともすると中年であるというの実感は、重苦しさや戸惑いを伴うものになりがちですが、掲句では「華やぐごとく」とありますから、力強い早足であったり、ズンズンという重量感を感じさせる歩きぶりだったのかも知れません。
おそらく、こう言い表す作者の意識には、自信が働ぎ盛りであることや、生活力のたくましさ、重くのしかかる責任感などが複雑にからみあっているのだと思いますが、けっして自分をきらびやかに演出してみせようとか、過剰なセレブアピールをしているわけでもありません。
華やぐように見えながらも、見え始めた限界や生活の疲れ、増してきた人生の陰翳など、中年の微妙な年齢感というものを、作者は「息白し」と結びつけることで的確に捉えようとしたのではないでしょうか。
12月9日にやぎ座から数えて「移動」を意味する3番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、過不足なく自分の背中を押していくためにも、呼吸の仕方や歩き方を意識して整えてみるといいでしょう。
黄緑色とメタリックブルーの花文字
例えば、ミシェル・ド・セルトーは『日常的実践のポエティーク』の中で、押しつけられた秩序に表向きは従いつつ、完全にはそれにハマらず、手持ちの材料やその場の即興で「なんとかやっていく」方法の具体的として、「歩行」を取り上げています。
セルトーは本来「言い回し」や「言葉のあや」に近い、古典修辞学における「文彩」を意味する「フィギュール」という言葉を「歩行」に結びつけ、「空間を文体的に変貌させてゆく身ぶり」と位置づけ、リルケの言葉を借りて「動く身ぶりの樹々」と言い表します。
こうした身ぶりの樹々は、そこかしこでざわめいている。その樹々の森は街を通って歩いてゆく。それらは次々と情景をかえてゆき、ひとつの場のイメージに固定されない。それでもあえてなにかの絵にあらわしてみようとすれば、それは(…)黄緑色とメタリックブルーの花文字の数々、大声をたてずに低いうなり声をあげながら都市の地下に縞模様を描いてゆくあの花文字のイメージであろう。
それは都市計画で指示された首尾一貫した固有の意味を、あらぬ方向に吹き飛ばし、「ねじ曲げ、粉々にし」つつ、「それでも不動を保とうとする都市の秩序から何かをかすめとってゆく」のです。
今週のやぎ座もまた、いまの自分に足りない予測不可能な動きをごく日常的な場面から取り入れてみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
低いうなり声をあげながら都市の地下に縞模様を描いてゆく