
うお座
肉声の自覚

目隠しを取ろうじゃないか
今週のうお座は、『田にあれば桜の蕊がみな見ゆる』(永田耕衣)という句のごとし。あるいは、ふだんスルーしがちな大事な営みに目を向け直していこうとするような星回り。
桜の花びらが散った後、咢(がく)にしばらく残るおしべやめしべのことを「蕊(しべ)」と言い、俳句では「桜蕊降る(さくらしべふる)」が晩春の季語とされています。
ただし掲句の場合は、花びらが散った後ではなく、まだ満開に咲いている「桜の蕊」のことを言っているのでしょう。
花見の席というのは、気心の知れた仲同士での遊びの場であり、そこでの桜は消費の対象であり、桜を見ていると言ってもあくまで雰囲気を楽しんでいるのであって、そこで花の奥に潜む蕊にまで注目しようとする人はまずいません。見えてはいるはずなのに、見ていない。言ってみれば、みずから目隠しをしているわけです。
そこを作者はそうした花見席から降りて、「田にあれば」と詠んでいる。これは実際に自分が農作業をするために田んぼに立ったというより、目隠しをとったら何が見えてくるだろうか、と「みな」に呼びかけているのだと言えます。
めしべとおしべによる受精もまた、ひとつの生産行為であり、新たなる可能性をつむぐ手仕事であり、愛ということの表現でもありますが、どうせ見るならそういう意味での「花」を見ていこうじゃないか、と。
4月13日にうお座から数えて「求愛」を意味する8番目の星座であるてんびん座で満月(感謝と解放)を迎えていく今週のあなたもまた、そんな花見と田打ちに励んでいきたいところです。
つかえが取れる
江戸時代の三大俳人の1人である小林一茶は、庶民的な句を大量につくりだしたことで知られていますが、40を少し過ぎたあたりから句が明らかに変わっていきました。
かなり露骨な貧乏句を作るようになったり、他にも奇妙な変わり様を見せるようになって、これが長年の庇護者たちの首を大いにかしげさせました。いい変化なのか、わるい変化なのか判別がつかなかったのです。
この点について例えば作家の藤沢周平は評伝小説『一茶』の中で、自身も高名な俳人で一茶の生活の世話などもしていた夏目成美(なつめせいび)に次のように語らせています。
これを要するに、あなたはご自分の肉声を出してきたということでしょうな。中にかすかに信濃の百姓の地声がまじっている。そこのところが、じつに面白い
今週のうお座もまた、どこかで自分が変わりつつあることの予感や実感をつかんでいくことができるかも知れません。
うお座の今週のキーワード
隠れていた地が出てくる





