
おうし座
夢と真実

奇妙な形の石をあつめる
今週のおうし座は、郵便配達夫シュヴァルの理想宮のごとし。あるいは、リアルな夢をもくもくと積み上げていこうとするような星回り。
1836年フランス南東部に農夫の子として生まれたシュヴァルは、さまざまな仕事を経て30歳で郵便配達夫となり、やがて異国からの絵葉書を目にした影響でエキゾチックなものに憧れを抱くようになり、黙々と仕事をこなしながら自身の夢想を育てていったようです。
そうして43歳になったある日、配達中につまづいた石を掘り出し、かつては海底であったそのあたりに埋もれた奇妙な形の石を集め始めたことをきっかけに、いつか自分の宮殿を建てようと思いついた。以来、誰の助けも借りず、周囲から狂人扱いされながら、33年間にわたって作業しつづけ、ついには高さ10メートル、横幅と奥行が26×14メートル規模の異様な理想宮を作りあげ、やがてそれは国の重要建造物に指定されました。実際にその理想宮を訪れた人によれば、その異様な宮殿の印象は次のようなものだったそうです。
最初私が受けたのは、建築という無機物よりも、今にも蠢き出しそうな、或る異様で、巨大な生き物、といった印象だった。(…)宮殿を蔽う細部の夥しさは、人にめまいを感じさせる。(…)細部は到るところで溢れ出し、それ自身の動きに従って壁面一面を氾濫している。(…)熊、鹿、象、かわうそ、チータ、蛇、蛸、ペリカン、フラミンゴ、駝鳥、鵞鳥、鷲などありとあらゆる種類の生き物たち、人間とも動物とも鳥ともつかぬ怪物たち、椰子や、サボテンや、いちじく、アロエ、オリーブ、糸杉などの植物群、林立する無数のファロスのごときもの、粘土のしたたる石筍の連なり……。(岡谷公二、『郵便配達夫シュヴァルの理想宮』)
おそらく、宮殿に氾濫する細部の1つひとつがシュヴァルが、かつて手にとった石の中に見たリアルなビジョンであり、だからこそ、長年にわたり積み重なっていったその全体から「巨大な生き物」のような印象を受けたのではないでしょうか。
3月7日におうし座から数えて「実感」を意味する2番目のふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、他の誰が認めずとも自分にとって大切に感じられる価値を、少しずつでも積み上げていくことが大事なのだと、改めて思い直していくべし。
幻想こそ真実
フロイトは晩年期に書かれた『幻想の未来』において、「宗教的な観念とは、経験の集積や思考の最終結果ではなく、幻想であり、人類の抱いているもっとも古く、もっとも強く、もっとも差し迫った願望の現実だ」と述べており、ひとびとがさまざまな場面で他者へ投影したり夢のなかで具現化していく幻想は誤謬などではなく、むしろ切実な願いを芯に含んでいる大切なものであるとの考えを強調しています。
つまり、ここでは「宗教」の本質が、人間の無力さや罪深さをめぐる感情の中にではなく、そうした感情から救われようとする人々の願いにこそあるものと考えられている訳です。
そういう意味では「自分は現実的な人間だ」と考え、夢や幻想の意味や価値を否定する人ほど、フロイトの立場からすれば自己欺瞞的なのだと言えるかも知れませんし、しばしば“現実的な”星座とされるおうし座の人たちにとって、そうした夢や幻想の位置づけというのは普通の人以上に実存の核心にあるのかも知れません。
今週のおうし座もまた、自分が切実に願っているものは何なのかということに、少なからず光が当たっていくことになるはずです。
おうし座の今週のキーワード
ホモ・レリギオス(宗教的動物)





