
おひつじ座
新たな数式を生まねばならない

「アンテ・フェストゥム」感覚
今週のおひつじ座は、ヘルダーリンの書簡の一節のごとし。あるいは、実現不可能な理想に向かって、もはや後戻りできないような仕方で跳躍していこうとするような星回り。
精神医学者の木村敏は、『時間と自己』の中で統合失調症患者がどんな時間感覚をもって生きているのかという点について、「いつも未来を先取りしながら、現在よりも一歩先を生きようとしている」と表現しています。
しばしば統合失調症患者が訴える被害妄想も、誰かが自分に危害を加えることが現時点で確定しているからではなく、むしろそうであるかも知れない未来の兆しを常人以上に読み取り過ぎているからだという風に理解できるわけですが、こうした統合失調症患者に見られる未来先取り的な時間意識のことを、木村は「アンテ・フェストゥム(祭りの前)」と呼びました。
そして、もしカルテが残ってさえいれば、人類史において最初期の統合失調症患者と見なされたであろう人物に、ドイツの孤高の詩人のヘルダーリンがいます。フランス革命とシラーに強い影響を受け、20代で哲学的書簡小説『ヒューペリオン』(「高みを行く者」の意)を上梓し、30代半ばで狂気に蝕まれていった彼は、シラーと出会った直後の23歳頃に弟宛ての書簡で次のように述べていました。
これが、ぼくの願望とぼくの活動の神聖な目標なのだ―未来の時代に熟すべき芽を、われわれの時代に目ざめさせるということが。思うに、個々の人間と交わるのに、暖かみが少し減って来ているのは、そのせいなのだ。
この後半部分に見られる水平方向の関わり(他者との実際的な付き合い)のやせ細りと、前半部分の垂直方向(非現実的な理想との関わり)への偏重という空間的なバランスの崩れは、時間性においては「先取り」的な構えとしてすでに現れていたのだと言えます。
3月29日に自分自身の星座であるおひつじ座で新月(日食)を迎えていく今週のあなたもまた、目前の現実をぴょーんと飛び越えていくような“弾み”がついていきやすいでしょう。
星座としての「公式」
現代日本の詩人・岸田将幸は『孤絶-角』という詩の中で次のように書いています。
新たな数式を生まねばならない。きっとそれは次の人がぎりぎり踏み外すことのない足場になるはずだ。その数式は彼を沈黙させ、彼はしばらく別のところで生きて行かなければならなかったかもしれない。しかしだ、その別の場所を育んだのはある死者の息づかいの跡であったかもしれない。そうして彼はある死者の跡を引き受けつつ、また別の人を生かしめるために別の場所に立ったのかもしれない。
これは冒頭部の一節ですが、ここで言う「公式」とは、例えば私たち1人ひとりによって未知のストーリーが発見されていったそのプロセスであり、さながら星と星とを結んで作られた無数の星座のようなものと言えるかも知れません。
そしてそれらは、死者から生者へ、そしてまた次の生者へと、何十代何百代にもわたり、膨大な時間をかけて引き継がれていくものであり、そういうものを私たちは孤絶のなかでこそ受けとっていくことができるのではないでしょうか。
今週はおひつじ座もまた、自分なりの「公式」を生み出していくための足がかりを見つけていくつもりで日々を過ごしていきたいところです。
おひつじ座の今週のキーワード
孤絶のなかでこそ





