おひつじ座
本当に大切なことを忘れないために
ひそかな会話
今週のおひつじ座は、天の声に耳を澄ます西郷隆盛のごとし。あるいは、ひとり静かに内面との対話を交わしていこうとするような星回り。
明治維新最大の指導者の1人でありながら、意見が合わなくなった明治政府と対立し、最後には西南戦争に敗れて自刃したことで知られる西郷隆盛について、キリスト者であった内村鑑三は1908年に英語で刊行した『代表的日本人』の中で次のように書いています。
静寂な杉林のなかで「静かなる細い声」が、自国と世界のために豊かな結果をもたらす使命を帯びて西郷の地上に遣わせられたことを、しきりと囁くことがあったのであります。そのような「天」の声の訪れがなかったなら、どうして西郷の文章や会話のなかで、あれほどしきりに「天」のことが語られたのでありましょうか。のろまで無口で無邪気な西郷は、自分の内なる心の世界に籠りがちでありましたが、そこに自己と全宇宙にまさる「存在」を見いだし、それとのひそかな会話を交わしていたのだと信じます。
西郷はけっして宗教的な人物ではありませんでしたし、何か未来の出来事を予言した訳でもありません。しかし、少なくとも内村にとっては西郷は大いなるものに開かれた、霊性の高みにある人物であると考えていたことが分かります。
それは最後の「それとのひそかな会話を交わしていたのだと信じます」という1文に強く現れています。西郷はおそらくみずから人生の転機において、何か大きな決断を下す際には、自己との対話、そして天との対話をしずかに交わし、そこで見つけた心の真実を基づいて、迷いなく断固として実行していったのでしょう。
12月9日におひつじ座から数えて「周縁」を意味する12番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、どこかに引きこもって「静かなる細い声」にそっと耳を澄ませていきたいところです。
バウマンのやり方
社会学者のバウマンは、最晩年に書かれた『退行の時代を生きる―人びとはなぜレトロピアに魅せられるのか―』の中で、私たち現代人のきのう注目された事物はきょう忘れられ、きょう注目された事物はあした忘れられるような暮らしぶりについて、「常に流されて旅するしかなく、一ヵ所に静かに留まることは叶わない」のだと表現していますが、彼は読者に何を伝えようとしていたのでしょうか。
「この上なくありふれた暮らしから紡がれた物語が白日の下にさらすのは、実は途方もないものだが、うっかりすれば見逃してしまう。そうした物語を真にありふれた物語にしたければ、一見ありふれたものごとを一度面妖な物語にしなければならない」のだとも述べており、おそらくそれは「旅先から手紙を書く」というやり方によってより一層効果的になるはず。
つまり、非日常である旅先に静かに留まったうえで、いつもなら何気ない出来事のように見える「身近なもの」「いつもそばにあるもの」「常に変わらぬもの」を、どうしても慣れによって感性を鈍らせられる日常性から切り離し、引き剥がしたうえで、その1つひとつを奇怪かつ不思議な謎として扱い、それを日常のさ中にある自分への手紙として書き綴ってみるのです。
今週のおひつじ座は、そうした非日常からの日常の当り前の「異化」ということが少なからずテーマになっていきそうです。
おひつじ座の今週のキーワード
異化=一見ありふれたものごとを一度面妖な物語にする手続き