おとめ座
まなざしの反転
夏の夜の夢
今週のおとめ座は、『あなただあれなどと母いふ暑さかな』(竹内立)という句のごとし。あるいは、知らずに自分の人生をどう創っていたかがあぶり出されていくような星回り。
作者はこのとき71歳。「あなただあれ」というセリフは、ボケた人がよく口にする定番なのだそうですが、とにかく暑くて眠れない夜なんかにこれをやられたらと考えるだけで、作者の体験している「暑さ」には何か底知れないものを感じます。
むろん、夏の蒸し暑さも母親のボケもこちらがどう騒いだとてどうなるものでもなし。ただじっと耐えるしかない訳ですが、やはり人の声というものは耳に残るもので、ふと「あなただあれ」という、あれは一体どういう意味なんだろうと考え直す訳です。
つまり、文字通り相手の名前や正体を問いただそうとしているのか、それとも、「これなあに」や「どうして」を連発する幼児のように、正確な答えというよりコミュニケーションそのものを欲しているだけなのか。
後者だとすれば、幼い頃に自分を育ててくれた母親を、今度は自分が親になり替わって幼児のごとく世話している訳ですから、この世におけるバランスの在り方というのは本当に複雑怪奇にできていますが、子どもであるならできるだけ減点主義ではなく、加点主義で接していきたいものです。
その意味で、7月29日におとめ座から数えて「潜在的無意識」を意味する12番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、何となくこの世界や他人に向けていた視点や感情が裏返って自分の人生を創っていたことに気が付いていくことになるかも知れません。
どこから来てどこへ行くのか
恩田陸の『光の帝国』という小説は、この世界が言いようもなく怖い場所であると同時に、どこか懐かしい場所でもあることを実に絶妙に描いてくれています。
それは例えば、子どもの頃に感じていた、家に帰ったらお母さんがいなくなっているのではないか、とか、帰りのバスで見知った停留所がいつまでも呼ばれず、このままどこか知らない場所へ連れて行かれるのではないか、といった感覚にも近いかも知れません。
僕たちは、無理やり生まれさせられたのでもなければ、間違って生まれてきたのでもない。それは、光があたっているということと同じようにやがては風が吹き始め、花が実をつけるのと同じように、そういうふうに、ずっとずっと前から決まっている決まりなのだ。
僕たちは、草に頬ずりし、風に髪をまかせ、くだものをもいで食べ、星と夜明けを夢見ながらこの世界で暮らそう。そして、いつかこのまばゆい光の生まれたところに、みんなで手をつないで帰ろう
あなたなら、自分の人生にどんな物語をイメージし、そこにどんな結末を思い描いていますか。今週のおとめ座もまた、そうした自身をめぐる物語設定をそれとなく再確認していくことになるはずです。
おとめ座の今週のキーワード
あなただあれ