おとめ座
台所でUFOを
未視感(ジャメヴ)の生成
今週のおとめ座は、既知との遭遇。すなわち、毎日使っているような生活必需品のなかに未知が帰ってくるような星回り。
「蒸発する」などということが難しくなってしまった現代では、この世界のどこへ行っても、地上の地図をいくらたどってもダメだということになると、特に敏感なタイプや思春期や40代前後などの意識のズレが出てきやすい年頃であるほど内的なものに行くしかなくなって一種のオカルトや神秘主義、魔女術などにハマるか、UFOや特徴的な夢などを見るなどして、その中で逆説的にあらかじめ奪われた身体性、すなわちこの世界との接触やそれによって培われる連続性を回復するしかなくなっていくし、そうなってしまって当然であるように思います。
ただ、例えばUFOにしても、「未確認飛行物体」と言いながら、フライング・ソーサー(空飛ぶ皿)であったり、帽子や葉巻の形をしていたりして、いずれも既知のものの姿をしている訳で、UFOを目撃するというのは一種のデジャヴ(既視感)なんです。
だからよく、<未知との遭遇>などと言いますが、認識の在り方からすれば、既知のものと繋がらなければ未知としての意味を持たないわけで、逆に言えば、既知のものというのはすべて未知を孕んでいるということになる。それで、既知のものが未知のものとして見られ始めると、今度はUFOを見たりオカルトにハマったりする必要性がなくなっていくんです。
その意味で、7月7日におとめ座から数えて「身体性の深まり」を意味する2番目の星座であるてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分自身を現実に入れておくための「容れ物」を欲していくような傾向がグッと強まっていくでしょう。
何でもないような顔をして岐路はやってくる
人生には怪我で片目を失うとか、火事で家を失うといった決定的な転換を求められるような事態が起きることがあります。ただパスカルは、妻子を失って悲嘆の底にある男が、いま自分の賭けた馬がスタートしたというだけで数分間有頂天になっていた様を描き、そこから、人間の悲しみが一見深そうに見えてそのじつ底の浅いものであるとの結論に達しました。
つまり、怪我や事故といった事態は大抵の場合、唐突に、ないし運命的に訪れるがために、じつは案外割り切れやすい悲劇と言えるのかも知れません。そうした場合、苦悩の方向も範囲もはっきりしているがために、打撃は直接的な代わりに単純なものとなるのです。
そしておそらく、人生にはそれよりも目立たず、平穏でなだらかな形をまとって、じわじわと身体性を奪われていくような、はるかに決定的な岐路が伏在しているに違いなく、こちらを自覚なしに突き進む方がはるかに悲劇と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。
今週のおとめ座もまた、平穏さの覆いに隠されていた思いがけぬ“つまづきの石”に気が付いていくことから、<既知との遭遇>が始まっていくのかも知れません。
おとめ座の今週のキーワード
この世界と接続し直すこと