さそり座
ザ・ノンフィクションを地で行く
喧噪の背後にあるもの
今週のさそり座は、『春の夜や灯(ひ)を囲み居る盲者達』(村上鬼城)という句のごとし。あるいは、誰かのそこはかとないかなしさを汲み取っていくような星回り。
「亡者」ではなく「盲者」達。作者は聾、すなわち聴覚障害者であり、その立場から視覚障害者の集まりに思うところがあったのでしょう。
春の夜ののどかな心持ちを味わうのは、なにも健常者に限った話ではなく、盲者たちもまたこの季節らしいおぼろな灯りを囲んで、何やら楽しげに語り合っている。しかし、その楽しげに語り合っているということのうちに、打ち消しがたい寂しさや心の痛みが隠されていることを、作者ははからずも感じ取ってしまったのでしょう。
その意味で、掲句の「盲者達」とは現代人のカリカチュアであり、楽しげな会話や喧噪から隔絶したところに置かれた作者は、そんな現代人に群れようにも群れることのできない野蛮人や古代人の末裔とも言えるかも知れません。
その意味で、17日にさそり座から数えて「かなしさの海」を意味する12番目のてんびん座で満月を迎えたところから始まっていく今週のあなたもまた、隠された心の痛みに自然と心を寄せていきやすいはず。
不完全の美
どんな人間であれ、この世にすっと誕生したかと思えばあっという間にまたあの世へと帰っていく、ひどくあっけなく、はかない存在です。
ともするとネガティブな印象を抱きやすいこうした「はかなさ」について、例えば岡倉天心は「真の美はただ不完全を心の中に完成する人によってのみ見出される」という言い方で肯定的に捉えていこうとしました。
「はかなさ」とはこうした自分や人生の不完全さを感得しつつ、それを想像力の働きによって完成させる、日本人がその長い歴史を通して育んできた美意識の要諦であり、人生という不可解なもののうちに、何か可能なものを成就させんとする覚悟を伴った美意識だったのです。
今週のさそり座もまた、そうした「不完全の美」ということを、具体的な文脈でいかに自分なりに成就させていくことができるのかを改めて問われているのかも知れません。
さそり座の今週のキーワード
美の原石としての傷の入った現実