おとめ座
情熱の才を燃やす
自分の苦悩から出てこそ
今週のおとめ座は、ショーペンハウアーにおける『ピエタ』のごとし。あるいは、恋愛やしがらみに持ち込まれた自己愛をほどいていこうとするような星回り。
ミケランジェロの聖母子像は、マリアが十字架から降ろされたイエスの亡き骸を抱いて慈しみ悲しんでいる姿が表現されたものですが、そうしたマリアの姿をあらわした絵や彫刻のことを<ピエタ>と言います。
イタリア語の<ピエタ>は「慈愛」という意味だけでなく「共感共苦」という意味も兼ねており、この点について取り上げた哲学者のショーペンハウアーは、あらゆる真実の純粋な愛は共感共苦であり、そうでないようなあらゆる愛は自己愛であり、利己心なのだと述べています(『意志と表象としての世界(世界の名著45 ショーペンハウアー)』)。
さらに彼の筆致が冴えわたるのは、「泣くことは自分自身に対する同情(共感)である」ということを、ルネサンス期の詩人ペトラルカの歌によって裏付けている箇所で、それは次のようなものです。
思いに耽りつつさまよっていると、/にわかに私自身への強い同情の念が襲ってきて、声を張り上げて泣かずにはいられぬことがたびたびある。/これまではこんな思いをしたことはなかったというのに。
つまり、ショーペンハウアーによれば他人の苦悩を自己の苦悩に同一視するときにのみ、人は愛の業(わざ)や善い行為を行うことができるのであり、彼はそこに「これは自分の苦悩から出てこそじかにわかる」のだと続けています。
10月11日におとめ座から数えて「創造性」を意味する5番目のやぎ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、「泣くこと」を通じて自分が抱え込んでいた苦悩の中身を再確認していきやすいはず。
そのためにも、ひとり静かな気持ちでいられる時間をもつこと、そしてその中でどれだけ思いを深めていけるかということを、大切にしていきたいところです。
情熱という能力
しかし「声を張り上げて泣かずにはいられなくて泣く」という体験はなかなか滅多に起きるものではありませんし、それを起こすのもある種の才能が要るのではないでしょうか。
ここで思い出されるのが、やはりショーペンハウアーから強い影響を受けたニーチェの『人間的、あまりに人間的』の中に出てくる「自分の不名誉になるような考えを最初に大胆に表明することは、自立への第一歩になる」(池尾健一・中島養生訳)という一節です。
もちろんそうした表明をいざ実行すれば、生半可な知り合いや常識人たちは怖気づいてしまうでしょうし、あなたの元から離れていくでしょう。けれど、ニーチェはおそらく自分自身の経験をふまえ、実感を込めて次のように続けるのです。
能力に恵まれた者なら、この火のなかを潜り抜けなければならない。そうすることで彼がいっそう自分らしくなっていく
その意味で、今週のおとめ座もまた、自分らしい人生を生きようとする「情熱」という名の才能が問われていくように思います。
おとめ座の今週のキーワード
「生みの苦しみ」