おとめ座
密かなる抵抗
深い敗北をもたらした圧力としての「アメリカ」
今週のおとめ座は、『アメリカン・スクール』の箸の貸し借りのごとし。あるいは、自分の中の慎ましさや恥ずかしさの文化性を保持し続けていこうとするような星回り。
戦後の日米関係を鋭く諷刺してみせた小島信夫の小説『アメリカン・スクール』では、主人公の一人である日本人英語教師の伊佐は、英語教育の改善をめざすアメリカン・スクールの見学会に参加するが、どうしても英語が話せない。
一度事前に準備し、暗記して英語であいさつしたことがあったが、言い回しが文語的すぎて通じなかったために伊佐は自信を失ってしまう。ただ、英語を話せない理由はそのことだけでなく、なんだか緊張するのである。そこに生まれる屈服した感じが、何ともたまらない。そうして彼の中が誰かが、いつも彼の口をふさいでしまうのだ。
伊佐は見学するうちに、出世主義者の山田が強者に迎合し、日本人にも英語で話しかけてくるのに反感を抱く一方、唯一の女性教師で英語にも堪能なミチ子に好感を覚える。ミチ子は見学会にあるものを忘れてしまい、それを貸してくれと伊佐に密かに頼むのだが、小説の最後にその借りたものが「箸(はし)」であったことが分かる。
「箸」はなかなか他人と共有できないし、些細なものであるけれどないと困り、ごくごく私的ですこし恥ずかしい日本のものであり、口に運ぶという意味では言葉とも関係がある。そういう「箸」がポロリとミチ子の手元からこぼれ落ちるところで、小説は終わる。
8月26日におとめ座から数えて「世間との折り合い」を意味する10番目のふたご座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、ある種の権威や上からの圧力に対して、ささやかな「抵抗」のありかを自分のなかに見出していくべし。
栄枯盛衰を見つめる
シェイクスピアの『マクベス』の最初の場面、雷鳴と稲妻のなか3人の魔女が現れて会話を交わし、その場面の最後「きれいは汚い、汚いはきれい」というあの有名なセリフを声を揃えて唱えるのですが、原文では“Fair is foul, and foul is fair.” と書いてあります。
フェアとファウル、適法と反則、正しいことと間違ったこと、という意味です。つまり、人間の世界と魔女の世界とでは、正しいとされていることや価値観が逆になる。あるいは、良い手段と良い結果、悪い手段と悪い結果が、そのまま対応することなく、ねじれていくようなイメージで、岩波文庫の木下順二訳では「輝く光は深い闇よ、深い闇は輝く光よ」という訳でした。
これは単なる言葉遊びではありません。人や物事の栄枯盛衰を長い視点で冷徹に見つめていくことが得られる微妙なる明知の言葉であり、まさに今のおとめ座に必要な指針と言えるでしょう。
当初は世間や周囲に間違っていると言われた考えがやり方ほど、時を経てやがて正しいことが証明されるものですし、先の「箸の文化」のように一見柔弱なものほど、いずれ剛強なものに勝っていく可能性を秘めているのです。このことを、今週は改めて胸に刻んでいきましょう。
おとめ座の今週のキーワード
慌てなくても大丈夫