おとめ座
それでも人生は続いていく
あっけなさの後に残るもの
今週のおとめ座は、『手花火の柳が好きでそれつきり』(恩田侑布子)という句のごとし。あるいは、手花火の消え姿をさびしさと愛おしさと共に胸に刻んでいくような星回り。
手花火の柳を見るたび、ちらりと思い出されるかつての淡い恋について詠んだ句。「柳が好きで」というのは、もちろん現在進行形の自分のことでもあるのですが、その奥には遠い思い出の中のあの人のことでもあるのでしょう。
もしかしたら、その重なりに気付いたときに作者は自分の恋心に気付いたのかも知れません。しかし、手花火の柳が束の間だけ燃えて次第にしぼんで消えていくように、「それっきり」なのである。
恋心の鮮やかな明滅ぶりとは対照的なまでの、あまりにあっけない物言いですが、考えてみれば人生というのは数々の「それっきり」の別れに満ちています。というより、私たちが人生で結んだ人間関係のほとんどは手花火そのもののあっけなさで終わって、後には何も残らないものなのではないでしょうか。
作者は少なくても、かつての淡い恋に執着してはいなさそうですし、そのことを思い出しても心がうずいている訳ではなさそうです。むしろ乾いてさえいるかも知れない。
しかしそれでも、時おりどうしても目に浮かんでくる光景があり、その度に「その後の人生」を自分は生きているのだという思いで、ふしぎと心が新たになっていくのでしょう。
7月21日におとめ座から数えて「再誕」を意味する5番目のやぎ座で満月を形成していく今週のあなたもまた、そんな風に心が新たになっていく瞬間を迎えていくことになるはず。
人生の「この先」で
少数言語アルバレシュ語の話される環境で育ち、イタリア語は小学校に入ってから学んだイタリア人作家カルミネ・アバーテの『帰郷の祭り』という自伝的小説では、貧しい南イタリアから外国へと出稼ぎに行った労働者の、故郷やそこで待つ家族への狂おしいほどの郷愁が、少年の目を通して語られていきます。
ずっと前から、僕には分かっていた。僕たちみんなのために、僕たちの未来のために、フランスで生活する父さんがどれほどの犠牲を捧げているか
彼らにとって、故郷とは「こんなに近くに感じているのに、失われてしまったもの」として存在しており、ほとんどの人が当たり前だと感じている「今ここ」さえも、政治や自然など大きな力の前では否応なく、時に永遠に、喪失を余儀なくされてしまうのです。
そしてこれは何も遠い異国のきわめて珍しい例外的エピソードなどではなく、現代の日本人においても、もはやいつ何時でも起こり得る「分断」的事態であり、特に現在のような国家としての斜陽化がいちじるしい情勢ではそうした断絶やその痛みを感じやすいのではないでしょうか。
同様に今週のおとめ座もまた、結局のところ自分がいま心の底から欲しているものが何なのかということが、浮き彫りになっていきそうです。
おとめ座の今週のキーワード
もう戻れない<時間>を喪失した痛みを起点に