おとめ座
狂暴で純粋な希求をなだめて
決して後ろ向きだけじゃない孤独とともに
今週のおとめ座は、岡崎京子の『pink』という作品の主人公のごとし。あるいは、「僕たちの短い永遠」が終わっても、それでも人生は続いていくのだと思い直していくような星回り。
『pink』はお昼はOL、夜は風俗嬢をしている若い女の子がワニを飼う話だ。はじめは一人暮らしの部屋の浴室で、やがて同棲を始めた作家志望の男の子の部屋で。
彼女は「オマエは私のスリルとサスペンスなんだから」と言いながらワニを大層可愛がり、その餌代を稼ぐために身体を売っている。それは彼女にとってごく当たり前のことで、欲しいものを手に入れるためにはこれしかないのだと、彼女はごく自然に、しかし淡々と受け入れている。ただ、彼女が普通の人と少し違っていたのは、その欲望が簡単に懐柔できるような可愛らしいものなどではなく、どこか得体が知れず、常識だとか“普通のしあわせ”といった枠を大きく突き抜けたものだったということ。
自由、お金、物、将来の安定、愛、ホッとできる時間、心から信頼できる何か…。例えばあなたが欲しているものをすべて書き出せと言われたら、そこに何を書き足したり、厳選したりするだろうか。いずれにせよ、それは「金で手に入れられないものはない」と口元で笑みを浮かべながら、こともなげに言い切れるものなどではなく、よく分からないけれどまだまだ満たされないし、自分はもっとしあわせになりたいのだと、尽きせぬ不安を抱えながらやっと言葉に出せたり、やっぱり出せなかったりしていくようなものであるはずだ。
7月10日におとめ座から数えて「渇望」を意味する8番目のおひつじ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、後ろ向きな孤独に逃げ込む代わりに、前向きな不安と共にみずからの望みをきちんと声に出し、口にしていくべし。
人は孤独で、人生は束の間
岡崎の『pink』では、ワニは結局主人公をよく思わない継母の策略で強奪され、バッグにされてしまうのですが、動物の死に様と言えば、釈尊の次のような言葉を思い出します。
最高の目的を達成するために努力策励し心が怯むことなく、行いに怠ることなく堅固な活動をなし、体力と智力とを具え犀の様に角を振り立てて、広い草原をただ一人歩め(『スッタニパータ』)
「犀の様に角を振り立てて」とあるように、角は2本ではダメで1本角。孤独に屹立するサイのような自分であれ、というのが釈尊の真意だったのではないかと思います。
「それじゃあ、あまりに寂しいじゃないか」と思うかも知れませんが、結局人間は、友人や家族に囲まれようと、死ぬ時はひとり。それ以外は流れゆく風景のようなものであり、そんな自覚が体感をもって深まっていくとき、不思議とこの世での束の間の一時を共に過ごすべき相手や、繋がるべき想いに鋭敏になっていくのではないでしょうか。
そういう意味では、どこを向いても欲望を煽るような広告が迫ってくる一方で、死の気配のするものがことごとく覆い隠されるようになってしまったいまの社会というのは、人々が自分の孤独を受け入れられなくなってしまったということに尽きるのかも知れません。
今週のおとめ座もまた、そんなことを念頭に置きつつ、いま自分が受けれいるべきものは何なのかを明らかにしていくべし。
おとめ座の今週のキーワード
犀の様に角を振り立てて