おとめ座
水を吸って伸びる茎
反芻と伸張
今週のおとめ座は、『ガーベラ挿すコロナビールの空壜に』(榮猿丸)という句のごとし。あるいは、自身がいきいき生きていく上で不可欠な要素を差し込んでいくような星回り。
そこに在るだけでパッと色鮮やかな印象をもたらす「ガーベラ」は夏の季語。どうしても色とりどりの花の方に目がいきがちですが、掲句を一読すると見方がちょっと変わってくるはず。
ここでは作者の意識は、むしろコロナビールの空壜(あきびん)の方にあります。昨晩飲んで語らいあった内容や口をつけたときの感触をなんとなく反芻しつつ、あくまでその記憶を甦らせるべく「空壜」に一本のガーベラを挿したのでしょう。
すると、コロナの壜は透明ですから、どうしてもぬーっと長く伸びた茎が際立ってくる。昼の室内の明るさと花の華やかさとが足並みを揃えて互いに呼応しあう一方、その下で葉のついていない茎が無防備に伸びているのがいい。それは昼の顔とは別の、夜の顔をどこかで連想させますし、それが水を吸ってしばらく生き永らえるのだと思うと、妙ななまなましさが漂ってくる。
12日におとめ座から数えて「ケア」を意味する6番目のみずがめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、日常の中にあるエロスを改めて見出していくことになりそうです。
根源的な「生への衝動」としてのエロス
例えば、誰しも10代の頃というのは、苦々しいほどにエロスをこじらせている時分でもありますが、そもそもエロスとはどんなものだったのでしょうか。
神話的には、一般的に翼をはやした無害な幼児の姿で連想されることの多い「エロス」は、ギリシャ神話においては最古の神々のひとりであり、「愛する(エマライ)」などの関連語の一族を伴なって日常会話に頻出する抽象名詞でもある一方で、つねにいきいきとした具象的意味合いに充たされているものでもあり、それゆえに時に人間にとって危険なダイモン(神霊)でもありました。
エロスは彼の時にあわせて来る
誕生の地なる美しいキュプロスの島を去って。
エロスは来たる、地上の人間のために
種子をまき散らしながら。(『神々の指紋』)
例えば紀元前6世紀のテオグニスによって歌われたこの詩においても、エロスは気まぐれな恋の兆しというよりは、生きとし生けるものに訪れる「宿命的な生の衝動」を表しており、春の草花や単純な生きものにとっては、悦ばしく恵み深いものでした。
その意味で今週のおとめ座もまた、複雑な人間としてではなく単純な生きものへと、自身を傾けていけるかどうかが問われていくことになるでしょう。
おとめ座の今週のキーワード
「愛する(エマライ)」