おとめ座
食事のリズムを整える
「動物は喰らい、人間は食べる」
今週のおとめ座は、「食卓の快楽」の追求。あるいは、なにげない生活のなかで自分自身をより人間らしくしてくれているものに思い至っていくような星回り。
「美食家」の代表格であるブリヤ=サヴァランはかつて『味覚の生理学』(1826)において、「国民の盛衰はその食べかたの如何による」と喝破してみせましたが、ここで注意しなければならないのは、彼のいう「食べかた」というのはあくまで複数人からなる食事の場面を想定しているのであって、ひとり静かに食事にいそしむ人間の存在する余地はなかったということ。
彼はレストランに入ってる客の様相の喩えながら、明らかに「一人客」の存在を手厳しく糾弾(きゅうだん)していくのですが、それは彼らがまるで「自分の家にでもいるかのようにくつろいで」、他人をつかまえては「会話にしつこく首を突っ込もうとする」手合いだからなのだと言います。
つまり、ひとりでの食事に慣れきってしまうと、いつの間にか他者への配慮に欠けた存在となり、その意味で「孤食」は利己主義を助長し、「食卓の快楽」を知っているはずの人間の感受性を劣化させ、「食べることの快楽」しか知らない動物へと堕落させるのだ、と。もちろんこうした見方にはサヴァランの狭隘(きょうあい)な偏見がたぶんに入り込んでおり、今日的な常識と照らしても賛同しがたいものがある訳ですが、快楽を求める文脈がますます瞬間的で、短絡的になっている現代人の食事事情に思い巡らすとき、無視できない指摘でもあるのではないでしょうか。
15日におとめ座から数えて「共有の場」を意味する4番目のいて座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分にとって心地よい食事のリズムというものがどんなものなのか、改めて振り返ってみるといいでしょう。
献立作りのポイントから
最近、寿木けいさんの『わたしのごちそう365』という本を読んでいて、これはいいな、真似したいなと思ったことがありました。献立作りのための3つポイントとして提案されているものの内の1つなのですが、題して「器と食材が、料理を決める」。以下、その部分について引用させていただきます。
発想の逆転のお話。まずテーブルやお膳にその日使いたい器を並べてしまいます。器とキッチンにある旬の食材を頭の中でシャッフル。たとえば、このさらに豚肉をのせて、白い小鉢には葉野菜のさっぱりしたものがほしい、この皿には昨日のきんぴらごぼうの残りを……器を通して、作りたい料理がだんだん見えてきます。
これは、料理の中身だけでなく、誰と、どんな風に過ごすか、という食の形式を先にサッと決めてしまうという仕方にも応用できるはず。食卓の快楽をきちんと追求していくためには、それなりの知恵が必要なんですね。
並べた器から、ごはんの匂いだけでなく、食卓に流れる雰囲気まで漂うようになってきたら、それはとても幸せな体験でしょうね。ご参考までに。
おとめ座の今週のキーワード
今夜、何食べようか?