おとめ座
そうだよね、そうでしょ
空にかざして
今週のおとめ座は、『ごちさうの空に文庫かざしけり』(小津夜景)という句のごとし。あるいは、既に自分は充たされているということをそっと確かめていくような星回り。
いわし雲にさば雲、ひつじ雲など。秋の空模様を形容する言葉には、なんだかおいしそうな名前が何気なく並んでいます。
冬の雲ほど暗鬱でなく、夏の積乱雲ほど威圧高でない秋の雲は、なんだかこちらの食欲をそそる盛り皿のようで、「ごちさうの空」という表現にぴったりではないでしょうか。
しかし、そそられるのは何も食欲だけに限った話ではなく、空気が澄んだ分だけ湧いてきた一抹の寂しさを埋めるため、恋愛欲や知識欲、運動欲など、さまざまな欲がみるみる間に心の中を埋めていく。
あんまりそういう欲に踊らされそうになった時は、掲句のように自分で買った文庫でも、誰かからの贈り物でも、そっと空にかざしてみるといい。天と地のあいだには既にこんなにも豊かな物が確かに存在しており、それは自分の手の届くところにきちんと在るのだということが、改めて身に沁みてくるから。
9月23日におとめ座から数えて「豊かさの実感」を意味する2番目のてんびん座に太陽が入座する(秋分)今週のあなたもまた、そうした足りなさと充たされの帳尻を、自分が心地よく感じる程度に調整していくことがテーマとなっていきそうです。
冷蔵庫をあけたときのフッとした瞬間
これは吉本ばななの『キッチン』という小説でのワンシーンなのですが、冷蔵庫を開けた瞬間にフッとおばあさんのことを思って、おばあさんが死んだら困るなと、死んだおばあさんのことが何か自分の中に蘇ってくる訳です。
もちろんそれは、冷蔵庫を開けたら現れるとは限らないものであるはずなのに、それが起こってしまう。要は、因果律に合わないことをやっているんですね。
ただ、そのときに、そばで誰かがそのことを否定できないこと分かってくれる時がある。「どう思う?」「うん」「そうだよね」「そうでしょ」みたいな。
言わば、ハイパー・コミュニケーションが起きていて、そこで合理的に計算されたものをはるかに凌ぐエネルギーが許されてしまう。それはエネルギー保存の法則を突き破る、たまゆらの一瞬とも言えましょうか。
掲句の「空に文庫をかざす」というのも、言い方を変えればそういうことでもあったはず。今週のおとめ座は、そういう物理学における「不確定性関係」というか、どこか困惑を伴うような悦びを感じていくことができるかも知れません。
おとめ座の今週のキーワード
たまゆらの一瞬