おとめ座
影を見つめるマン
こちらは10月18日週の占いです。10月25日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
宙ずりにされた男
今週のおとめ座は、古井由吉の長編小説『槿』の一節のごとし。あるいは、安定した秩序や穏やかで退屈な日常から不意にはみ出していくような星回り。
この小説は四十歳を超えたばかりのもう若くはないが老いてもいない男・杉尾の周囲に、どういう偶然の事情によるものか、三人の女性が集まっては交錯していくというあらすじなのですが、そこでは誘いかつ拒む女性を前に、主人公自身もどうしたらいいのか分からなくなってしまうという場面が繰り返し登場してきます。
例えば、高校時代の級友の妹で、大学の頃、門のところまで送っていった別れ際に抱きしめようとして拒まれたことが一度ある、39歳の女性とホテルの部屋にいる場面。
女性は拒みつつ誘い、誘いながらも男の視線を冷たくはじき返し、その両義的な姿勢のただ中で、甘い花粉を散らす花となって静止しているようでもあります。当然、男もまた困惑のなかで動きをとめ、「きわどい釣合い」によって宙を吊られ、「張りつめた静かさ」のなかで苦痛なのか何なのか分からないものがおこり立つ、精神的な修羅場のような地点に立ちすくんだまま、うつらうつらと半睡状態に陥っていくのです。
そして20日におとめ座から数えて「妖しい間合い」を意味する8番目のおひつじ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、恋愛だの友情だのといった手垢のついた言葉では形容することのできない微妙で複雑な、名状しがたい関わりへと誘われていきやすいでしょう。
滲み出すものとしての影
一つの文字や一行の文章にも影があるように、どんな人生にも歩んできた道のりの分だけ影があるものです。
それは人によって長い長い「言いわけ」であったり、逆にあえて言わずに積み重ねてきた「沈黙」であったりとさまざまですが、いずれにせよそうした影は放っておけばいつしか所有者を蝕むようになり、ついには影の方が主人となる立場逆転の危機を迎えることになります。あるいは、放っておいてはいけない影に執着し、愛着を覚えるようになるケースもあるでしょう。先の『槿』の主人公の男のように、それもまた人間の姿なのです。
あるいは、ある絵を「いい」と感じるのは、その人が‟素の自分”に帰るときでもありますが、最近忙しくて内面を見つめる時間がなかったという人は、特に注意してみるといいでしょう。その忙しさは、内にある影から逃げ出すために自分でこしらえたものなのかも知れません。
おとめ座の今週のキーワード
タロットカードの「吊るされた男」