おとめ座
無常に立ち返る
懐かしい未来へ
今週のおとめ座は、「夏はあるかつてあつたといふごとく」(小津夜景)という句のごとし。あるいは、これまで当たり前にあったモノ/コトが急に覚束なくなるような星回り。
近年こそ温暖化や異常気象などで季節感が狂いつつあるものの、考えてみれば、有史以来数千年にわたって地球上の各地で季節が毎年かならず同じ時期に巡ってきたということは、何もかもが不確かなこの世界にあってそれ自体が奇跡のようなことであるように思います。
ただし、いま生きているどんな人であれ、そうした季節の巡りを自分の感覚に基づいて100%の確信できている人はいないでしょう。誰しもが少なからず、「かつてあつた」という理由から今年も、今も、そしてこれからもあるのだろう信じて疑わない“ふり”をしたり、お互いにそれを強化しあって生きているのだと言えます。
掲句はある意味で、そうした”ふり”への無自覚的な没入から解かれて、真顔に戻った人間の何とも言えないまなざしと共にあるのではないでしょうか。
そして、それは秋でも冬でも春でもなく、いつもどこか不思議な懐かしさと共に再生される夏という季節でなければならないのです。
8月8日におとめ座から数えて「喪失と消息」を意味する12番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、また一つ古びた「共同主観」から脱け出していこうとしているのかも知れません。
「あらためて」という感覚
掲句の根源にあるのは「あらためて」という言葉の背景にある根源的な感覚に通底するものがありますが、例えば哲学者の磯部忠正はその点について次のように説明しています。
いつのまにか日本人は、人間をも含めて動いている自然のいのちのリズムとでもいうべき流れに身を任せる、一種の「こつ」を心得るようになった。おのれの力や意志をも包みこんで、すべて興るのも滅びるのも、生きるのも死ぬのも、この大きなリズムの一節であるという、無常観を基礎とした諦念である(『「無常」の構造』)
つまり、われわれの生き死にには、大きな四季の移り変わりや月の満ち欠けのような移りゆきと同じように、無常のリズムというものが働いており、「あらためて」ということも、ついついそのリズムから逸脱してしまった人間が、再びそこに軌を一にしていく際の感覚を表現しようとしているのかも知れません。
とはいえ日本人のDNAに刻み込まれた遺伝的記憶としての無常観を、現代人は忘れつつある訳ですが、今週のおとめ座は、そんな身の内の遺伝的記憶を再びよみがえらせていくことがテーマになっているのだと言えます。
おとめ座の今週のキーワード
社会より大きな世界のリズム