おとめ座
運命との直面
同体異心
今週のおとめ座は、岡本かの子の短編小説『秋の夜がたり』のごとし。あるいは、もう一人の自分の姿を誰かどこかに見出していこうとするような星回り。
この作品は中年の両親が20歳前後の息子と娘に旅先で昔話をしているという設定で始まるのですが、いわく二人の母親は女友達で、たまたまそろって妊娠中に夫を亡くし、父親は女の子として、母親は男の子として育てることを合議して決めたのだと言うのです。
やがて男の子として育てられていた母親が初潮を迎えると、母親たちは事実を子供たちに伝え、「なぜ」ということを聞き出すこともできず受け入れて成長していきますが、女装した息子も「建築学を研究したい」と思うも奉公先で三角関係になり、乗馬に秀でていた男装の娘もやはり絶体絶命な状況に。二人はそろって都を飛び出し、田舎で自然と元の性にかえり、そこで夫婦として暮らすようになったのだとか。
そして、このお話について翻訳家の脇明子が「この女装の男の子もやっぱり少女なのではないか」という非常に興味深い指摘をしていて、この物語全体が「女はこうあるべきだという通念に従いながらも、そこにおさまりきらない心」を複数の人物(両親、娘、息子)に分裂させて描くために書かれているのではないかと続けているのです。
22日におとめ座から数えて「補い合うべき他者」を意味する7番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、一見関係ないように見えつつも、実のところ自分の分身でもあるような他者との関わりに積極的に巻き込まれにいくといいでしょう。
ヘーゲルの運命論
哲学者のヘーゲルは『キリスト教の精神とその運命』という論考の中で、運命について、何らかの罰を受けて自らの生きがいとなっていたものが破壊されるとき、彼のなかで運命の働きが始まるのだと述べています。
そのとき、不在のものが自分の分身に他ならないことが自覚され、意識の中で、自分に与えられていたはずのものの「欠如」が「不在の生命」へと変わっていくのだ、と。
そうして「人間は運命のなかに自分自身の生命を認める。そして生命への希求は主人に対する哀願ではなく、自分自身への立ち返りであり接近なのである」と続け、さらに「人間は運命のなかに自己が失ったものを感じるので、運命は失われたものを呼び起こす」と結ぶのです。
ここでは、運命というものが人を大いに翻弄するにも関わらず否応なしに従わなければならないものとしてではなく、むしろその逆で、それに直面していく者の生命力を強めてくれるものとして運命を考察しているのだということが分かります。
願わくば、今週のあなたには後者の態度をみずから選んでいってほしい。そのように思います。
今週のキーワード
「運命」というものへの深い理解や感受