おとめ座
無音の歌
あさはこわれやすいがらすだから
今週のおとめ座は、谷川雁の「東京へゆくな」という詩のごとし。あるいは、精神の火花をほとばしらせていくような星回り。
社会主義的なリアリズムを基調とした力強いイデオロギーを言葉に紡いでいった谷川雁という詩人がいます。彼は言葉の裏に必ず実際の運動や活動を走らせていた人でしたが、1954年に刊行された彼の第一詩集『大地の商人』の中に、「東京へゆくな」という有名な詩があります。
「ふるさとの悪霊どもの歯ぐきから
おれは見つけた 水仙いろした泥の都」
という二行から始まるこの詩は暗喩につぐ暗喩の連続で、1つの意味にこだわり始めると途端に訳が分からなくなって立ち往生してしまうのですが、流れ流れて言葉の奔流に身を任せていると、不意に次の二行にぶつかります。
「あさはこわれやすいがらすだから
東京へゆくな ふるさとを創れ」
このあまりにも鮮烈な言葉に、これまでの奔流が突如として真っ逆さまに落下し、岩にたたきつけられたかのような衝撃が走る人も少なくないでしょう。
実際、彼は大学を卒業してしばらくして、故郷の九州の地へ戻り、炭鉱労働者の間で活動を続けていきました。
11日から12日にかけて、おとめ座から数えて「精神的成長」を意味する9番目のおうし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ある種の目覚めとともに立ち上がっていくことになるかも知れません。
孤独のなかで語る
ガストン・バシュラールは何かのエッセーの中で「ラジオには、孤独のなかで語るに必要な一切のものがある」と書いていましたが、人には誰しも、自分の心の奥に自分だけの聖域を持っており、そこには自分に関するすべての秘密の入った黒い小箱があります。
しかもそれはただの収納箱ではなく、飛行機のブラックボックスのように、これまでに自分に起きた出来事や心の動きの一切が記録していると同時に、壊れかけのラジオのようにチャンネルさえきちんと合わせれば、そうした情報の一部を私たちに伝えてくれるのです。
ラジオはテレビのように脳を派手に刺激するものではありません。耳で誰かがささやき、それに応えるように私たちは心の小箱をそっと開いていく。すなわち、「不在の語り手」をその不在性ゆえに豊かに感じ取っていけるメディアなのだと言えるでしょう。
今週のおとめ座はまるで自分自身がラジオになったつもりで、心の音を無心で鳴らしてみるといいかも知れません。
今週のキーワード
壊れかけのラジオ