おとめ座
ぬるっとおぼろげに
既存のかたちを崩していく
今週のおとめ座は「栃木にいろいろ雨のたましいもいたり」(阿部完市)という句のごとし。あるいは、これまでの常識を自分なりに崩していこうとするような星回り。
栃木(トチノキ)は熱帯雨林を起源とする落葉樹であり、実際、内陸県である栃木の夏期は積乱雲と雷が発生しやすいことでよく知られています。
しかし、仮にそうした前提を知らなかったとしても、「栃木」と「雨」そして「たましい」という言葉の連なりだけでも、日本人の遠い記憶に訴えかけてくるものがあるように思われます。
俳句の決まり事である「季語」が入っていないことも掲句のポイントなのですが、にも関わらず、おぼろげに鬱蒼と茂った緑と水分をたっぷり含んだ生暖かい空気の感じが伝わってくるから不思議です。
季語の持つ伝統的な連想性やお約束に束縛されることなく、独特の韻律で1つひとつの言葉の意味を微妙に崩していくことで、全体としてまったく新しい捉え方を切り拓くことに成功しているのではないでしょうか。
21日におとめ座から数えて「人脈や情報網」を意味する11番目のかに座で先月に続き2度目の新月を迎えていく今週のあなたもまた、これまで自分ひとりの力ではなかなか崩せなかった予定調和的な流れを、誰か何かの力を借りることでひょいと超えていくことができるかも知れません。
時として馬鹿になること
私たちは時として「身を固める」ことで、完璧で強固なアイデンティティを獲得していこうとし、そうして困難にも潰れることなく、周囲や社会の期待に応えていくことができるのだと信じて疑わないところがありますが、今週はそうした信仰はいったん脇に置いてください。
こうしたタイミングで、ともすると普段「身を固める」ことを求められてガチガチになりがちな私たちは、その考えから解放されることによって、ちょうど掲句における「生暖かい空気」、またはギリシャ語でいう「プネウマ」のような空気や息吹、ゆらめきのような流動体として感じられやすくなっていくでしょう。
自然とあなたも、変化のない安定した状況や人間関係に居心地の悪さを感じたり、ここではないどこかへ吹き去っていく風のように、これまでの繰り返しのような予定調和をかき乱していきたくなるはず。
その意味で、今週は「我慢」を禁句に、どこまでも素直になって心をのばしていくといいでしょう。
今週のキーワード
流動体としての自己同一性