おとめ座
なつかしい未来を夢みる
タイムマシンに乗って
今週のおとめ座は、都市の空き地が見せる奇妙な夢のごとし。あるいは、夢と現の境界線で遊んでいくような星回り。
私たちはある風景にたいして、特別な「なつかしさ」を覚えることがありますが、「なつかしさ」というのは自分にとってのアイデンティティーを何か遠く離れたものに重ねていく中で生み出され、誰かと共有されることで強調され、タイムマシンのように装置化されていくという側面があります。
つまり、「なつかしさ」とは現実世界から脱却していくための助走線であり、それゆえに「なつかしい場所」は日常世界には存在せず、時おり不意をつくかたちで私たちの前に見え隠れするのであり、本質的にそこは日常と緊張関係をもつ「対抗空間」なのです。
今週はもし、そんな「なつかしい」景観が目の前に現われたなら、意識から消えてしまう前によく目に焼き付けておくこと。それらは得てして、未来への予期を孕んでいるはず。
エル・アレフのごとく
ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「エル・アレフ」は、まさに奇妙な夢のような小説です。
主人公はひょんなことから近々取り壊されることになった実家の地下室に、≪エル・アレフ≫すなわち「地上のすべての場所、それもあらゆる角度から見た地球上のすべての場所が混乱することなく融けあうこともなく凝集している」という小さな光り輝く球体があることを知り、同時に家が取り壊されればそれもなくなってしまうということも耳にします。
そして慌てて実家へ見に行った先で、実際に「宇宙がそのままの大きさですっぽり収まっている」さまを目の当りにしつつ、忘れがたいさまざまな光景を幻視するというお話です。
もちろんこの話は虚構ですが、一瞬のうちに生の全体像を見たり、その一部を垣間見るということがあっても何ら不思議ではありません。
自分という更地のうえに、今後どんな建物がたてられ、そこで人々がどんな生活を営んでいくのかを夢みる<都市の空き地>のように、今週は想像の世界へ翼を広げていきましょう。
今週のキーワード
テラン・ヴァーグ