おとめ座
夢を仕込むということ
宝と代償
今週のおとめ座は、「本あまた銭とかへたる春夜かな」(上村占魚)という句のごとし。あるいは、お金よりも大切なことのために進んで投資していくような星回り。
作者は書物も愛したが、それと同じくらいに酒も愛した。やせ細った子供っぽい体型だったという話だが、夕方から暁にかけて、一人でゆうに二升は飲んだという。
酒の歌と言えば、『万葉集』の大伴旅人の「値なき宝といふも一杯の濁れる酒にあにまさめやかも(価値のつけられないほどの宝といっても一杯の濁り酒に勝るものなどあるだろうか)」が挙げられるが、そこにはどことなく都で権力という「宝」を奪いあう者たちへの批判も暗に込められているように思われてならない。
作者は俳人であり、随筆家でもあったから、本は大切な資産であり仕事道具でもあったに違いないが、それでも飲まずにはいられない理由があり、ふと気の緩む春の夜などは特にたまらなかったのかも知れない。彼は14歳のときに母を亡くしており、「母恋い」は終生のキーワードだった。
4月1日におとめ座から数えて「愛を受けとる場所」を意味する11番目のかに座で、上弦の月("殻破り”のタイミング)を迎えていく今週のあなたもまた、自分にとって何が「宝」かを見定めた上で、相応の代償を払ってそれをみずからの手に受け取っていけるかどうかが試されていくだろう。
はかなさこそ夢の醍醐味
例えば「夢」はお金には代えられない得難い機会の筆頭であり、古来より故人や訳あって会えなくなった人との再会を果たすことのできる貴重な"場(インターフェース)”でもあった。
ただし、美というものは、本来、何かを欠いたものであり、完璧な計算や合理主義、ましてや損得勘定からは、美はおろか、ドラマさえも決して生まれてこない。楽しい時間は後で余韻が残るからこそ「楽しかった」記憶として残るのであり、あらかじめどんな夢を見るのか分かって夢を見れたなら、おそらく地球上は夢の残骸で覆い尽くされるはずだ。
だからこそ、人は実現可能な夢ばかり追うように出来ていないのかも知れない。だってお金を払えばいつでも見たい夢が見れてしまうようになったら、あまりに味気なく、つまらない。占魚が書物を売ってまでして酒代を工面し、酒を飲み続けたのも、そのことをよく分かっていたからに違いない。
その意味で、今週は「意識的なコントロールを外す」がポイントになってくる。余韻が残るほどに非現実的な夢を無意識の中に仕込んでいく。今はそれくらいのつもりで過ごしてみてほしい。
今週のキーワード
Between the Worlds(二つの現実のはざまで)