おとめ座
焼け石に水をかけ続けること
「小さな死」の先にあるもの
今週のおとめ座は、「雪の夜の背にマグマある深眠り」(正木ゆう子)という句のごとし。あるいは、身の内の奥のほうでたぎっている熱いものを静かに溶かしていこうとするような星回り。
この世界にもっとも深い静寂がおりるのは、雪のふる夜。そんな時は、眠りもまたいつもよりずっと深くなるような気がする。
暗い穴の底へと落ちていく感覚。情事の後に訪れる短く深い眠りをフランス人は「小さな死」と表現するそうだが、もし深い眠りが短く終わらずに、どこまでも落ちていったなら、その先には何が待ち受けているのだろうか。
作者はそれを「マグマ」だという。マグマとは一体何のことだろうか。
溜め込んだ怒りがあまりに巨大すぎる時、人は怒りの存在自体をすっかり忘れてしまうことがあるが、「背にマグマある」という感覚はそうした普段記憶の奥底に眠っている怒りや不満とかすかな一点で繋がっていくような印象を受ける。
25日(土)におとめ座から数えて「病み(闇)の解消」を意味する6番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週は、寝た子を起こしてそっと向き合っていくには絶好のタイミングであり、そこではマグマに冷たい雪を押し当てていくようなある種の「鎮火」がテーマとなっていくだろう。
原始的情熱を呼び覚ます
マグマは、いわば原初的な情熱の源とも言えるが、ここで思い出されるのはかつて井筒俊彦が『ロシア的人間』の中で、かの地に棲む人々を「永遠の原始人」と呼んでいたこと。
「行けども行けども際涯を見ぬ南スラヴの草原にウラルおろしが吹きすさんでいるように、ロシア人の魂の中には常に原初の情熱の嵐が吹きすさぶ。大自然のエレメンタールな働きが矛盾に満ちているように、ロシア人の胸には、互いに矛盾する無数の極限的思想や、無数の限界的感情が渦巻いている。知性を誇りとする近代の西欧的文化人はその前に立って茫然自失してしまう。」
現代において西欧社会以上に合理的知性を正しいものと信じてきっている日本人にとって、おそらくこうしたロシア的な極限性は得体の知れない怪物のように映るかも知れない。
しかし今週のあなたにとって、常識や論理の枠内に抑えこむことが不可能な情熱は非常に身近なものと感じられてくるはず。
願わくば、それらを圧殺してしまうことなく、静かに受け止めていくだけの呼吸の深さを確保していきたいところ。
今週のキーワード
脱・茫然自失