おとめ座
子宮へと続く井戸
薄暗がりの胴体人間
今週のおとめ座は、江戸川乱歩の『芋虫』のよう。あるいは、薄暗がりのもっと奥へと身を投げ入れていくような星回り。
母の胎内の温度というのは、一体何度ぐらいなのだろうか。風邪をひいて全身が熱をもった時に訪れる、体と同じくらいの温度の粘っこい感触に包まれるあの空恐ろしい悪夢が、もし胎児の頃の記憶の残滓だとすれば、胎内に満ちた羊水の温度はかなり高いのではあるまいか。
昭和4年に発表された江戸川乱歩の『芋虫』は、戦争で両手両足だけでなく、五感のほとんどを失い、視覚と触覚のみが残された傷痍軍人を描いた短編小説。
最後に視覚を失い、鈍い皮膚感覚だけを頼りに、古井戸に身を投げるため薄闇の庭を這っていく胴体人間の姿は、さながら胎児の頃の人間そのものであり、またどこか今週のおとめ座にも通底していくものがある。
そして22日(金)におとめ座から数えて「心理の根源」を意味する4番目のいて座に太陽が移っていく今週のあなたもまた、日常意識の背後の薄暗がりに身を潜めているもうひとりの自分と改めて出会っていくことになるだろう。
谷川俊太郎の「朝」より
それに近い体験について書かれたであろうもののひとつに、谷川俊太郎の「朝」という詩がある。
この詩は「また朝が来てぼくは生きていた/夜の間の夢をすっかり忘れてぼくは見た」という書き出しから始まるが、ここですでに普段見えないところへ意識が飛んでいきつつあるのが感じられるはずだ。
以下、その続きを抜き出してみたい。
「いつだったか子宮の中で ぼくは小さな小さな卵だった それから小さな小さな魚になって それから小さな小さな鳥になって それからやっとぼくは人間になった 十カ月を何千憶年もかかって生きて そんなこともぼくら復習しなきゃ 今まで予習ばっかりしすぎたから」
この詩は『すてきなひとりぼっち』というタイトルの詩集に収録されているが、谷川俊太郎の言葉は、まさにあなたが「ひとりぼっち」であるときのお守りにもなるだろうし、一方であなたを「ひとりぼっち」にもするかも知れない。
いずれにせよ今週のあなたは、そんなひとりきりでしか味わえない、誰もいない場所へと意識を飛ばしていくことがテーマとなっていきそうだ。
今週のキーワード
子宮回帰願望