おとめ座
自分自身への旅路
仲直りするために
今週のおとめ座は、ひとつの変化を遂て、長い帰路に着いた詩人のごとし。あるいは、透明に熟していくのを待つ果実のような星回り。
自分自身と仲直りするために、人はしばしば旅に出ます。そしてそういう旅に、本来、目的地はいりません。自分自身が目的地だからです。
詩人としての池澤夏樹が、ナイルやギリシャへの長い旅から帰ってきた後に上梓した第二詩集『最も長い河に関する省察』もまた、そうした旅の記録であると同時に、自分自身の魂のあり様をめぐる省察にもなっています。
ギリシャの山野を自転車で駆け抜け、わけのわからないナイルをどこまでも遡行し、「たとえば砂漠が匂わない」ことを発見する日々のなかで、詩人は毎日どこかに座り込んでは黙々と言葉を磨いていたのでしょうか。
「日々の決算は就寝と共に済み 翌日は新しい荷だけを載せて 彩雲の中に帆を張って現れる 聖なる驢馬がその到来を告げ 冷たい磁器の薄明がひろがる」 (輪行記)
五行すべてが能動態の動詞で終わるこの一節は、詩人が「冷たい磁器」のような環境の中でことばとともに自分の魂が熟していった証しであり、新たな生きる理由ともなって彼の足もとを固めていくことでしょう。
25日(木)におとめ座から数えて「旅」や「自己の開け」を意味する9番目のおうし座で下弦の月を迎えていく今週は、あなたもまたどこかでそんな魂の行き来を体験していこうとしているように思います。
橋をわたる
橋わたりの達人でもあった西行の歌に、こんなものがあります。
「五月雨はゆくべき道のあてもなし 小笹が原もうきに流れて」(『山家集』)
ここで西行は、あてなく流れる五月雨に、あてのない自分自身の旅路と、うき(浮き、憂き)世のはかなさを掛けているのでしょう。
でも、それは自分で求めていったものでもあり、けっして悲嘆している訳ではない。むしろ、求めていった先で出会う矛盾や疑問、悲哀と夢、得体の知れないものの気配。
それら一つ一つを感じて動いた先こそが、「橋(端)」であり「境界線」、そして永遠の旅の道しるべなのです。
今週のあなたもまた、それらのうちの一つでもあぶり出していくことを心がけていきたいところ。
今週のキーワード
むすんで ひらいて