いて座
さりげなく異分子を招き入れる
「あ、いるな」
今週のいて座は、『部屋内に北極熊がゐることを誰に告げるともなく暮らしをり』(笹井宏之)という歌のごとし。あるいは、共感や理解などを介さない相手の存在をこそ大切にしていこうとするような星回り。
90年代に一世を風靡した岡崎京子の『pink』も、やはり誰に告げるともなくワニとともに暮らしている若い女性が主人公の作品でしたが、北極熊=シロクマもまた獰猛さや非日常性という点でどこか相通じるものがあるように思います。
掲句のシロクマは同居していると言っても、人間のように食卓をともにしたり、一緒に寝たり、言葉を交わしあったりしているわけではなく、「あっ、向こうも起きてるな」というくらいの関係なのでしょう。シロクマの方だって、「あ、例の人間がいるな」くらいには思っているでしょうが、それ以上ではないはずです。
シロクマの存在は、どこか近代以前の世界の妖精や精霊であったり、自分でもあまりうまく意識化できていない欲望の象徴という風にも解釈できますが、ここでは精緻な定義を追求していくより「どこか親しみを感じる異分子」だとか「外部であるような内部」といった曖昧さを含んだイメージとして楽しんでいった方がいいでしょう。
その意味では「誰に告げるともなく」というのも、「広く世間に理解してもらえるような言葉で説明することができないままに」くらいのニュアンスに近いかも知れません。
9月22日にいて座から数えて「共異体」を意味する11番目のてんびん座へ太陽が移っていく(秋分)ところから始まる今週のあなたもまた、シロクマのような異族的な存在を含んでいくことで、かえって世界が広くなっていくのを感じることができるはず。
異人とは誰か?
「異族Alien」という言葉を使いましたが、それについて考えるにはまず「異人stranger」とは誰のことを指しているのか、ということを問わなければなりません。
社会学者のゲオルク・ジンメルの定義によれば、「異人」とは漂泊と定住の両義的在り方を示す人々のことでしたが、近しいものとしては折口信夫が定義づけた周期的に他界から来訪してくる「まれびと(稀人・客人)」もまた異人の一種と言えるでしょう。
つまり「異人」というのは白人であるとか、「お前は中国人だ」といった実体概念ではなく、あくまで関係概念であり、ひとつの内集団(われわれ)としての共同体の内側(中心)に視点をすえ、当の共同体への訪れや、あるいは周縁部へと疎外され自分たちから見えなくなっていた現実が「異人」(かれら)として表象されてきた訳です。
その意味で、今週のいて座もまた、せっかく近くまで訪れてきてくれている異人や異族をさりげなく招き入れられるかということがテーマとなっていくでしょう。
いて座の今週のキーワード
異人の歓待