いて座
おのれの趣味にしたがう
「あいつは仕方ないか」
今週のいて座は、不良社会人入門。あるいは、狭められた「世間」からあえて転がり落ちていこうとするような星回り。
日本社会というのは暗黙のルールに従わない人をなかなか好きに放っておいてはくれないもので、皆でわざわざ世間を狭くしていこうとする傾向がありますが、戦後すぐの1948年に発表された太宰治の『人間失格』を読んでいると、次のようなやり取りが出てきます。
「しかし、お前の、女道楽もこのへんでよすんだね。これ以上は、世間が、ゆるさないからな。」
世間とは、いつたい、何の事でせう。人間の複数でせうか。どこに、その世間といふものの実体があるのでせう。けれども、何しろ、強く、きびしく、こはいもの、とばかり思つてこれまで生きて来たのですが、しかし、堀木にさう言はれて、ふと、「世間といふのは、君ぢやないか。」といふ言葉が、舌の先まで出かかつて、堀木を怒らせるのがイヤで、ひつこめました。
(それは世間が、ゆるさない。)(世間ぢやない。あなたが、ゆるさないのでせう?)
(そんな事すると、世間からひどいめに逢ふぞ。)(世間ぢやない。あなたでせう?)
(いまに世間から葬られる。)(世間ぢやない。葬むるのは、あなたでせう?)
こういう「世間」や「普通」といった言葉を使って誰かに物を言う人というのは(大抵は「あなたのため」と前置きして)、いつの時代もマジョリティの漠然と正しい了見の真ん中に自分を置き、世間を無視する者や知らぬふりをしている(ように見える)者をつかまえては、しつこく攻撃しようとしてきたのではないでしょうか。
ではどうしたらこうした轟轟たる「世間」からの攻撃を逃れることができるのでしょうか?それも、出家したり、田舎に引っ込んだりするのでなく、人にまみれて暮らしていながらも、「あいつは仕方ないか」と見逃してもらえるようになるためには……。おそらくそのための一番の近道は、「善良な市民」や「健全な社会人」をやめて、むしろ社会から転落することでしょう。
8月5日にいて座から数えて「世間との折り合い」を意味する10番目のおとめ座に金星が入ってゆく今週のあなたもまた、とりあえず会いたくない人にはできるだけ会わないようにすることから始めてみるといいかも知れません。
フリーレンの受け止め方
スマホ一つで、いつでもどこでも誰かと繋がれる時代となった現代は、複数のコミュニケーションや行動を同時並行的に行っていく「マルチタスク」が常態化している社会という風にも言い換えることができます。
それは何となく寂しくて退屈で不安だという気分をごまかすにはもってこいではありますが、かえってそういうマルチタスク・モードに慣れてしまうと、おのずと求める他者や出来事は本質的に誰でもよい/何でもよいという程度にうすまっていって、私たちの人生を交換可能性や抽象性へと導いてしまうのではないでしょうか。
ここでそうしたマルチタスク・モードの対極のケースとして思い出されるのが、アニメ化もされた『葬送のフリーレン』というファンタジー漫画の主人公であるエルフの魔法使い・フリーレンです。エルフは何千年という長大な時間を生きる種族であるため、どうしても人間よりじっと寂しさや退屈と直面せざるを得ない宿命にあるのですが、フリーレンはそれを「趣味」を生活の中心に置くことで乗り越えようとします。
すなわち、誰に気兼ねしたり、都合をあわせる訳でもなく、偏った欲望(世に知られざる魔法の収集と習得)を追求していくことの楽しさを第一優先に、悠々自適に暮らしていくことで、かえって人とすれ違ってしまったり、誰かに会えなくなってしまった寂しさを、消去しようとする代わりに、自分のペースで受け止めていくことができるようになっていくのです。
今週のいて座もまた、そんなフリーレン流の生き方を、世間付き合いの参考にしてみるといいかも知れません。
いて座の今週のキーワード
偏った欲望の追求としての「趣味」