いて座
この道はどこへと繋がっていくのか
赤と白!の下にあるもの
今週のいて座は、『火を投げしごとくに雲や朴の花』(野見山朱鳥)という句のごとし。あるいは、ド派手な活躍の裏にある地味で単調な暮らしを再設計していくような星回り。
梅雨時の6月を代表する花と言えば、アジサイとこの「朴の花」でしょう。ただし、前者は街中のそこかしこで見ることができますが、後者は山の中でひっそりと白い花を緑の中に浮かべるように咲いているイメージ。
掲句の「火を投げしごとくに雲や」とは、朝か夕方に、火のように赤く染まった雲が風に乗って走っているさまを捉えたものであり、どこか巨大な火の神の見えざる働きを想像させてくれる雄大な措辞です。
そうした神話的な光景をバックに、純白の大きな花が樹上高くに集まって咲いている。そうした印象的な“白”はある種の平穏さや無垢の象徴であり、ここでは赤と白との強烈な対比が際立っていますが、それらの下にはさらに花を埋める木々の“緑”もあることを忘れていけません。
この場合の緑とは、私たちを地に足つけた存在にさせてくれる日々の暮らしであり、地道な努力の積み重ねでしょう。その意味で、6月14日にいて座から数えて「到達点」を意味する10番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分が目指すべき社会的な到達点を意識しつつ、改めてそこへと繋がっていくだろうロードマップを明らかにしていきたいところです。
37歳の松尾芭蕉
若くして俳句の宗匠(マスター)となってすでに十分な成功を手にいれ、賑やかな日本橋界隈に住んでいた芭蕉は、37歳の時に突如として、当時は辺鄙な場所であった深川の粗末な小屋に移り住みました。そして、それだけでなく、それまでの売れ線の俳句とは異なる独自の作風を確立し始めたのです。
その頃に詠まれた「枯枝に烏のとまりたるや秋の暮」という句に添えて、歴史小説家の中山義秀は『芭蕉庵桃青』の中で次のように書いています。
彼はその頃からして、体内になにやらうごめく力を感じていた。小我をはなれ眼前の現象を離脱して、永遠の時のうちに不断の生命をみいだそうとする、かつて自覚したことのない活力である。/その活力が「烏(カラス)のとまりたるや」という、字あまりの中十句に、余情となってうち籠められている。
こう書いた中山もまた、早咲きの同級生を横目に、中学校の教師生活や校長とのトラブル、妻の闘病と死、貧困といった生活上の困難を経て、やはり37、8歳頃にようやく自身の文学の道を確立したのでした。
中山にとって文学の道とは、時代や状況に流されることのない、独立自尊の気風であり、芭蕉を描いた筆致にも、自然と自身のたどってきた道への思いが重ねられていたように思います。
同様に、今週のいて座もまた、自己卑下するのでも過大評価に陥るのでもなく、ありのままに自分自身を捉え直していくことがテーマとなっていくことでしょう。
いて座の今週のキーワード
誰に媚びるでもなく、時代に流されるのでもなく