いて座
緊張感を呼び込む
感覚の微妙さを支えてくれるもの
今週のいて座は、『双六の賽に雪の気かよひけり』(久保田万太郎)という句のごとし。あるいは、マイノリティ側へと静かに身を寄せていこうとするような星回り。
正月に「双六(すごろく)」をしていて、サイコロを握ったらそこにひんやりとした冷気のようなものを感じた。それをして「雪の気(け)」と言ってみせた、とても繊細な一句。
雪が降ってからの出来事なら当たり前の話ですから、まだ雪は降っていなかったのでしょう。したがって、これは真正面から自然に接しているのではなく、あくまで都会の生活のなかで影のしのびよる花鳥風月を詠んでいるのだとも言えます。
作者は浅草に生まれ育ち、小説家として江戸情緒を描く名手でもありましたから、掲句の背景には滅びゆく文化に対する愛惜の情のようなものもあったかと思います。
つまり、「雪の気」をとらえる感覚の微妙さというのは、リアルタイムで社会のメインストリームとなっているものを追いかけるミーハーさだったり、一般的に正しいとされていることをみんなと一緒に従っていく気安さなどとは対極的な緊張感や孤独な営為と表裏一体のものだったのではないでしょうか。
その意味で、1月11日にいて座から数えて「生きがい」を意味する2番目のやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした淡々と緊張感をみなぎらせていきたいところです。
声を出して読むべきものは何か
江戸文化に限らず、知らないとついついなかったことになりがちな歴史というのが、この世の表層の下には数多く埋もれている訳ですが、中でも15、6世紀頃まで、人々はいちいち声を出さねば読書ができなかったという事実は、「虚を突かれる」という言葉にふさわしい事実でしょう。
思えば『源氏物語絵巻』にも女官たちが読む絵巻を侍女たちが耳をそばだてて聞いている光景が描かれていますし、中世の修道院図書館の図版などには「キャレル」というブース付きの閲覧室が描かれ、これは本を読むときの声が隣りに聞こえないようにするためのものだったと言います。
つまり、洋の東西を問わず、あらゆる読書すなわち知的営為の根本は、声を立てて読まれていたのであり、人類の知的営為は視覚ではなくおもに聴覚を通して行われてきたのだということです。
今週のいて座もまた、ふだんの視覚優位の情報回路とは別の仕方で知の形成や再構成に従事してみるといいでしょう。
いて座の今週のキーワード
黙読以前の世界へのタイムスリップ