いて座
何かが外部から到来してくる
23度半の奇跡
今週のいて座は、『晩春の瀬々のしろきをあはれとす』(山口誓子)という句のごとし。あるいは、現実の移り変わりを頭の理解ではないところで鋭く感知していくような星回り。
新年度が始まって早1カ月。人間界に加えて、自然界や動物界でも一気に活動が活発化していくと思ったら、気が付けばもう夏に突入していく頃合い。掲句もまた、「瀬々(せせ)」つまり川面のきらめきもまぶしさが際立ち、いよいよ日差しが夏特有のそれへと変わっていくのだと察して、これこそ「あはれ」だな、あんなに待ち遠しく思っていた春があっという間に過ぎ去ってしまって、しみじみと感慨深いなという訳ですが、逆に言えば、「あはれ」の本質にあるのはこうした季節の移ろいへの体感なのかも知れません。
じつは、季節というのは地球と太陽間の距離で決まる(最も近づくときが夏で最も離れるときが冬)のではなく、23度半という自転軸の傾きで決まります。例えば、日本が夏になる年の中頃は、北半球の真上の方向から太陽が照らす位置に地球はいるため、地平線から高い位置から太陽が地表を照らすことになり、結果的に地表が受ける熱量が多くなり、気温が高くなって暑い夏の季節となるのです。
その意味で、掲句のように何よりもまず川面の光の反射具合で真っ先に夏の到来を感知するという感覚は、単に文学的な慣例というだけでなく、科学的な裏付けも十分にあるのだと言えます。
5月6日にいて座から数えて「気配」を意味する12番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、周囲の人たちがまだ感知していないような現実を的確に捉えていくことができるでしょう。
海の彼方からの贈り物
島崎藤村に「名も知らぬ遠き海より流れ寄る椰子の実一つ……」から始まる『椰子の実』という詩がありましたが、ほんらいは遠洋の深い海を泳いでいる鯨が何かの間違いで狭い湾に迷い込んでやってくることを、日本では昔から「寄鯨(よりくじら)」と呼び、捕らえられた寄鯨の肉はすべての村人に分配されてきました。
これは、海から寄り来るものは他界からこの世にもたらされた贈り物であり、特定の誰かが独占してはならず、全員が平等に分けあわれなければならないという暗黙の了解があったことを表しています。
例外としては、難破船の荷物や材木が流れついたときには、第一発見者がそれを自分のものにすることができたようですが、いずれにしても海の彼方から流れ着いたものは、この世の誰のものでもないし、もし受け取るとしても特別な配慮をしなければならないというフォークロアがかなり古い時期から日本には根付いていたのです。
現代社会では、そうしたかつての「海の彼方」の相当する“外部”が現実には想像しづらくなってしまいましたが、それでも人びとの心の奥底には残存しているはず。その意味で、今週のいて座もまた、予期しない形で自分のもとに転がりこんできた“贈りもの”はできるだけ独占せず、誰かや周囲とシェアしてみるといいでしょう。
いて座の今週のキーワード
寄鯨を分け合う村人