いて座
流されて、負けを重ねて見えてくるもの
流され王
今週のいて座は、『老(おい)たりないつかうしろへさす団扇(うちわ)』(小林一茶)という句のごとし。あるいは、流されつつある自分に気が付いていくような星回り。
ひょいと気付いたら、背中のほうに団扇をさして歩いていた。年寄りくさくなったもんだ、いやだねえ。といったところが句意でしょうか。
しばしば老いを口にしてきつつも、そこに多分にポーズのあった作者ですが、掲句は作者53歳の作で、前年にようやく結婚し、その疲れが出てきた頃合いでもありますから、このあたりから老いを語るその口ぶりにも真実味が出てきているように思います。
どことなく、眼鏡を頭の方にあげたまま眼鏡を探しているような情景とも通じるところがありますが、団扇をうしろへ差したままそれを忘れて歩いていた、というのもある種のゆるみや油断のサインとして作者は受けとったのかも知れません。
熱力学的エントロピーの増大則に従っているこの宇宙では、いくら物事は放っておけば乱雑・無秩序な方向に向かっていくものとはいえ、そうした流れに逆らってこそ人間じゃないかという気持ちと、かつてあれほど気を引き締めていた自分なのに、と呆れる気持ちとで葛藤が生じたところで、掲句が出来たのでしょう。
その意味で、6月7日夜にいて座から数えて「物事の帰結」を意味する10番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、まず大きな流れのただ中にある自分の現状を客観視してみるといいでしょう。
あえて勝たないし、負けないやり方
ここで思い出されるのが、瀬戸内海に浮かぶ小さな島である祝島です。人口が約400人ほどしかおらず、過疎と高齢化のすすんだ地域でもあるこの島は、その一方で、過去30年にわたって原発反対闘争を続けながらも負けていない稀有な事例としても知られています。
それはこの島が、地元の産物を売ったり、ゆるキャラをつくったり、観光客を呼び込もうという世間の流れに反して、人口減少と高齢化を受け入れたから。しかし、にも関わらずこの島の雰囲気が暗くないのは、原発に象徴されるエネルギーモデルとは違う新しいエネルギーモデルを実際に作り出していることと、縮小して小さくなった共同体を互いに支え合うことで、そう遠くないうちに消滅するだろうまでの期間をいかに有意義に過ごすかに資源を投入していったことが、大きく影響しているのだとか。
つまり、負けを受け入れ、経済競争から降りることで、生きる戦略を変えたわけです。面白いのは、そんな島にこんな場所で生きたいという若者が移住してくるようになって、かえって人が戻ってきたこと。こうした“弱さ”をてこにして繋がっている共同体のカギになっている思想を、文化人類学者の辻信一は「敗北力」と呼んでいました。
同様に、今週のいて座もまた、どうしたらそんな風に「敗北力」を発揮していけるかということがテーマとなっていきそうです。
いて座の今週のキーワード
生存戦略の切り替え