いて座
背景を見通す
稲妻の神話学
今週のいて座は、シャーマンにおけるコウマネクのごとし。あるいは、みずからにある種のアハ体験を呼び込んでいくような星回り。
エスキモーのシャーマンから聞き取った話によれば、コウマネクとは、シャーマンが突然体内に、頭の中に、脳髄の中心に感じる神秘の光、名状しがたい灯台、ないし輝きわたる火のことで、それが彼に暗闇の中でも何かを見ることを可能にしてしまうのだそうです。
それはまるで、彼の座っている小さな部屋が突然もちあがり、周囲がそっくり大平原へと変わり、眼前はるか遠くまで景色が広がり、その視線は山々を越えて大地の果てまで達するかのように感じられる。
もはや彼の前方に隠れているものは何もない。それは遠くまで見えるというだけでなく、盗まれたものやかつて見失ってしまったものを発見することもできるようになるのだとか。これは長い準備の結果でありながら、突然「稲妻」のように起きるのが特徴で、ある種のアハ体験とも言えるように思います。
闇を引き裂く雷の突然の爆音と閃光は、世界を変貌させると同時に、魂を聖なる恐怖で満たすのであり、それを生き延びた者は、新しい人となり、新しい生活を始めるのです。
同様に、3月21日にいて座から数えて「抑えきれない昂揚感」を意味する5番目の星座で春分(太陽のおひつじ座入り)を迎えていくあなたにもまた、一時的にであれ見えないものを見ていく瞬間が訪れるかもしれません。
熊楠の自己同定
いつも前向きで何が起きてもどこ吹く風といった調子のいて座にとって、普通は見ることのできないものの筆頭に挙げられるのは自己の背景かも知れません。その点で思い出される人に、卓抜した民俗学者にして粘菌の研究者であった南方熊楠(みなかたくまぐす)がいます。彼は亡くなる2年前の昭和14年3月10日付の真言僧・水原某宛ての手紙の中で、「小生は藤白王子の老楠木の神の申し子なり」と述懐していました。
「藤白王子」とは藤白神社のことで、熊野の入口と言われている場所。熊楠はこの神社の楠の大木から「楠」の名を授かり「熊楠」と命名されたこともあって、その木をみずからの生命の根源と見なし、自分はその老楠から生まれ出た粘菌人間と思っていたのではないかと思われます。
このことは、単に彼のセルフイメージやアイデンティティといった内面的な話だけに留まらず、のちに彼が鎮守の森の伐採とセットであった神社合祀への激烈な反対運動へと駆り立てられていく原動力ともなっていきました。熊楠にとっては“たかが木一本”という判断さえも決して容認することはできなかったのです。
今のあなたには、彼ほどに深く自己同定しえるものが何か思い当たるでしょうか?生まれた土地、付けられた名前、込められた思い、宿った縁。今週のいて座は、そういった普段なかなか掴みきることのできない自己の背景をずずいと辿ってみるといいでしょう。
いて座の今週のキーワード
闇を引き裂き走る稲妻を念じるべし