いて座
ハイブリッドな展開
一つの神々しく鳴りひびく詩行
今週のいて座は、ロシア・アヴァンギャルドの代表的詩人フレーブニコフによる詩的断言のごとし。あるいは、他者の目を通してみずからを再発見し、あらためて定義しなおしていくような星回り。
こんにち「人種」という概念は、さまざまな文化のあいだで横たわる、それ以上還元しえない差異を表すきわめて曖昧かつ“便利”なレトリックとなっていますが、例えば、複雑な民族伝統の吸収・融合のうえにみずからのアイデンティティを築いているロシア人について、フレーブニコフは次のような詩を遺しました。
僕は、ツンドラとタイガとステップが織りなす、
一つの神々しく鳴りひびく詩行にも似たロシアを思った。
「ツンドラ」は永久凍土地帯、「タイガ」は針葉樹林地帯、「ステップ」は平原地帯のことですが、異なる地帯の動植物のハイブリッドで共生的な生態を、彼は人間の存在観や歴史観につなげてゆくべく、こうしたある種の神秘主義的直感を詩という形で刻印していったのです。
同様に、3月10日にいて座から数えて「多様性」を意味する7番目のふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの内部に胚胎させていた共生的な生態について、きちんと声をあげて語っていくべし。
「混血性」を生きる
ロシア、インド、ペルシア、シャム、中国といった文化的異質性の融合によって立ち現われるアジア的「宇宙人種」の誕生というビジョンを構想していたフレーブニコフは、その生い立ちや軌跡からして民族的混血性を有していました。
カスピ海西岸のカルムィク高原に生をうけ、ヴォルガ川河口の町アストラハンを「祖先の町」として慕った彼の精神の中には、ラマ教を信仰したモンゴル遊牧民の一系統に属するカルムィク人が示すアジア的霊気がつねに息を潜めるように存在していましたし、その一方でタタールスタン共和国の首都カザンにあるカザン大学で数学や生物学、物理学を学び、近代的な高等教育の薫陶をうけたことで、新旧の精神潮流がフレーブニコフというひとりの人物のなかでぶつかりあい、しぶきをあげて渦巻いていったはずです。
嵐の中で生まれた俺たちは、風まかせに生きていく。
謎めいて、恐ろしく、目を瞠って。
今週のいて座もまた、アストラハンという町がつねに示してきたハイブリッドな文化感覚を引き受けつつ、彼の生きた時代の急速な動きとも連動していたたフレーブニコフのように、どこかで空間的・地理的境域に閉じ込められていた自らの精神を再編成してみるといいでしょう。
いて座の今週のキーワード
アジア的「宇宙人種」の誕生