いて座
愛を育てる
こちらは4月12日週の占いです。4月19日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
恋歌と古代ギリシャ哲学
今週のいて座は、古今集の恋歌に付した荻原朔太郎の評釈のごとし。あるいは、単なる感覚的な享楽よりも求めるに値するものに改めて気が付いていくような星回り。
古今和歌集に載っている「大空は恋しき人の形見かは物思ふごとに眺めらるらむ」(酒井人真)という恋歌について、荻原朔太郎は次のように評していました。
恋は心の郷愁であり、思慕のやる瀬ない憧憬である。それ故に恋する心は、常に大空を見て思ひを寄せ、時間と空間の無窮の崖に、抒情の嘆息する故郷を慕ふ。恋の本質はそれ自ら抒情詩であり、プラトンの実在(イデア)を慕ふ哲学である。(プラトン曰く、恋愛によってのみ、人は形而上学の天界に飛翔し得る。恋愛は哲学の鍵であると。古来多くの歌人等は同じ類想の詩を作っている。…しかし就中この一首が、同想中で最も秀れた名歌であり、縹渺たる格調の音楽と融合して、よく思慕の情操を尽くしている。)
ここには私たちが経験しうるすべての知の源泉としての「心の故郷」へ回帰する道としての哲学、そしてプラトンの対話篇とはそれへの愛を問いただした痕跡に他ならなかったのだという詩人の洞察が示されています。彼の中では「実在(イデア)」という哲学的概念と抒情詩=恋愛とがこれ以上ない魅力的な仕方で結びついていたのでしょう。
12日にいて座から数えて「エロス」を意味する5番目のおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、こうした「郷愁」や「憧憬」をいかに鮮やかにこころに甦らせるかこそがテーマとなっていくことでしょう。
豊かな孤独
古今東西の詩人や宗教家たちは、真に美しいもの、善きもの、価値あるもの、すなわち「実在(イデア)」は、深い孤独からしか生まれないと、くりかえし説いてきましたが、それは本来とても豊かな孤独のことであったにも関わらず、現代における孤独は彼らが言及してきたものよりもずっと貧しいものになってしまったように思います。
例えば、20世紀における最も優れた詩人のひとりであろうライナー・マリア・リルケは、真に愛を育てるのは孤独で、恋する二人はお互いに孤独に耐えることで初めて、相手に対する愛を純粋に大きく育てていくことができる、と述べていました。
リルケは愛のない両親のもとに生まれ、陸軍学校の寄宿舎へ幼い頃から入れられて、人生の始まりにおいて孤独地獄を味わい尽くした人でしたから、これは何の不自由もなく幸福に育った人の寝言などでは決してなかったはず。
今週のいて座もまた、みずからの孤独に耐え、孤独を見つめることを通じて、少しずつでも孤独を豊かにしていくということを身をもって実践されてみるといいでしょう。
今週のキーワード
イデアを慕ふ