いて座
身の内の音楽を鳴らせ
外へ飛び出した男
今週のいて座は、セリーヌの『夜の果てへの旅』のごとし。あるいは、堅苦しさからのまったき解放。
ざっとあらすじを書けば、作者の分身を思わせる医師バルダミュが、第一次世界大戦に志願するも戦場で精神を病み入院した後、当時植民地だったアフリカやアメリカをさすらい、最後にパリの貧民街で開業するという話ですが、この小説の特徴と言えば、つんのめるほどスピード感たっぷりに連射される罵詈雑言。
植民地へ行っては蔓延する搾取と人間の愚かしさに毒を吐き、デトロイトの自動車工場では長時間の過酷な流れ作業に人間性まで抑圧される姿を見て呪詛し、帰ってきたパリでは虫けらのような人間の姿をやっぱり呪いまくる。
ただ、それだけ世の中を呪っている小説なのになぜか反発を抱かず、読むのをやめられない魅力を感じてしまうのは、主人公が自分自身もダメ人間のひとりというかその代表だという実感があるからでしょう。
「自分のうちに十分な熱狂がなくなれば、いったい、外へ飛び出したところで、どこへ行くあてがあるのか。現実は、要するに、断末魔の連続だ。この世の現実は、死だ。どっちか決めねばならない。命を絶つか、ごまかすか。僕には自殺する力はなかった。」
12日にいて座から数えて「生命の謳歌」を意味する5番目のおひつじ座で火星に月が重なっていく今週のあなたもまた、とことんまでじたばたして蠢いていくべし。
大いに自分を語れ
苦しい年月を経てきた現在ですら、自分の考えていること、感じていることを語れないのは非常に悲しいものだ。
胸かきむしられるおもいである。
私は幼少のころから、こうした才能や能力をみにつけたいと願い、ほかは何の楽しみももたずに、一途にそうおもいつめてきた。
けれども、それと無関係な言動は、それが私の生涯の大半を占めていたのだが、すべては虚偽だった。
(ヘンリー・ミラー、幾野宏訳『南回帰線』)
おお、まさに首につながれた鎖のくびきを解かれたばかりの飼い犬の語りのようではありませんか!
ごまかすくらいなら、いっそ吐露してしまうがよし。
今週のキーワード
ダメ人間であるという自覚