いて座
書き換わりつつある私の感覚
楔を打ちこむ
今週のいて座は、「つつましき保身をいつか性として永き平和の民となるべし」(近藤芳美)という歌のごとし。あるいは、きちんと自己を相対化しつつ時局と向き合っていくような星回り。
戦後すぐの、日本がまだGHQの支配下にあった時期の歌。自分は小さな保身を習慣としながら永い平和を送ることになるだろうというほどの意味だが、簡単そうに見えて、その表面の奥には複雑な感情と多重の意味の含みが込められているように思われる。
その背景には、戦地から帰ってきても職がなく、何もすることのない人々や、家を失った多くの人が社会にあふれていたという世相がある。その一方で、平和的な民主国家の建設を声高に語る活動家たちがにわかに活気づいていった時代でもあった。
おそらく作者は、そうした声の大きな正義に対して違和感を抱きつつも、それをあくまで謙虚に、しかしはっきりと言葉にしようとしたのだろう。「保身を性として」は内省を込めた自己相対化の楔であり、「永き平和」という言葉には皮肉の響きが確かに聞こえる。
8日にいて座から数えて「中長期的展望」を意味する11番目のてんびん座で満月が起きていく今週のあなたもまた、世相や情勢に流されない冷静なまなざしを自己に向けつつ、少し先のことまで視界を広げていくことがテーマとなっていきそうだ。
「大人になる」とは?
ふつう人は自分の人生が破綻することを不幸なことだと思っていますが、人生を中長期的に捉えていくとき、不幸と真実はコインの裏表のようなものだということに気が付いてくるはず。
というより生が破れて、職業や名誉や家庭や財産など、何かしら喪失していった時にはじめてこの世のほんとうの姿を垣間見て、そこで人間とは何かを少しだけ悟るのだ。
ただし、せっかく人間に生まれながら、人間とは何かということを知らずに、人生を終えてしまう人間が世の九割である、といっても言い過ぎではないだろう。そういう小利口な人間になることを、日本人はいつから大人になるとか、成熟と呼ぶようになったのでだろうか。
小利口をやめるには、子供にならうのが一番だが、子供ながらに「保身を性として」という自覚を持つことはそう珍しいことでもないだろう。今週のいて座は、喪失を経験していくとき、そこから本当の意味で人生は始まっていくのだということを心に刻んでいきたい。
今週のキーワード
残酷人生論