いて座
宇宙のように複数であれ
複数詩人
今週のいて座は、フェルナンド・ペソアの詩人としての経歴のごとし。あるいは、<私>のうちで誰かが出現していくような星回り。
ペソアという詩人は1888年にポルトガルで生まれ、八歳のとき母親と義父に連れられて南アフリカに移住し、そこでイギリス風の教育を受けて英語でものを書き、成人後にひとりでリスボンに帰って(今でいう帰国子女)、商社で働いて生計を立てつつポルトガル語で詩作を続け、四十七歳で没したという。
この経歴だけでも幾重もの「仕掛け」のようなものを感じさせるけれど、さらに彼は三人もの詩人を「発明」して、それぞれに丹念なライフ・ヒストリーを与え、それぞれの名で詩集を出している。もちろん、「自分本人」が書いた詩集とは別にだ。
こうした操作を、なにかうさんくさい名前の精神疾患で片づけようとするのは簡単だが、創作・虚構・文化などと呼ばれるものの秘密を孕んでいるようにも感じられ、ひどく魅力的である。
「詩人はふりをするものだ/そのふりは完璧すぎて/ほんとうに感じている/苦痛のふりまでしてしまう」(詩と詩人について)
3月3日にいて座から数えて「他者」を意味する7番目のサインであるふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、どこかでぺソアのように、巧妙な「ふり」を通じて身に巣食うひそやかな毒を発散されたし。
異なる個人と魂の同一性
「この子はおばあちゃん(おじいちゃん)の生まれ変わりだ」などと誰かが言うのを聞いたり、実際に自分がそう言われたことはないだろうか。
死んだらそれで終わり、原子か塵に還元されて無になるのだという近代科学的な「イデオロギー」にこだわっている人にはずいぶん奇異に聞こえるかも知れないが、こうした異なる個人の中に「魂の同一性」を感じとり、愛でようとする伝統は日本だけにとどまらず、太平洋地域に住むネイティブの文化や伝承には、祖父母と孫、曾祖父母と曾孫の特別な結びつきを語る事例が豊富に見られる。
どんなに節制していても、たえずノイズのつきまとう雑多な情報環境の中で生きざるを得ない現代人にとって、そうしたかすかな結びつきは他のガラクタと一緒になって現実の奥底に埋もれてしまっていますが…。
今週はそうしたあなた自身もまた、いつまでも老いることのない子供であると同時に、ほとんど死につつある老人でもあるような、そうした現実の層に分け入っていくことができるかも知れない。
今週のキーワード
自己矛盾と自己一致