いて座
突き抜けた遊びの感覚
おふざけの美学
今週のいて座は、「総金歯の美少女のごとき春夕焼」(高山れおな)という句のごとし。あるいは、「真剣にふざける」ということを実践していくような星回り。
単に夕焼けといえば夏季。暮れ遅い春の夕焼には、春特有の柔らかでおだやかな情緒があり、古人はそれを大いに愛で歌に詠んできました。ただし、「春の夕焼け」を「総金歯の美少女」に喩えたのは、古今東西でもおそらく作者以外にいないのではないでしょうか。
一見すると悪ふざけとさえ思える掲句ですが、しばらく向きあっていると、掲句はまるで俳句なんて、芸術なんて、ただ真面目にやればいいってものじゃないでしょうという、作者の無言のメッセージが伝わってくるように感じられてくるから不思議。
自らの自信のなさを茶化してごまかすような輩のそれとは違って、こういうふざけ方にはある種の美学―ダンディズムがありますね。
同じふざけるのなら、かくありたいものです。端的に言えば、どこか突き抜けた遊びの感覚と言いますか。
言葉がこうでしかないという配列で組み合わさることで、まるでバブル期のごとき悪趣味になりかける手前で、宙返りして「わびさび」に着地している。それくらいのウルトラCを目指していきたい今週です。
トールキンの場合
映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作者J・R・R・トールキンは、『指輪物語』の草稿を執筆しながら、地図やスケッチを描くことで物語に情報を加え、アイデアを試していったのだそうです。
作家としての「書く芸術」にとって、本来不必要であると思われがちな「描く芸術」は、トールキンにとっては密接に絡み合っていました。
物語の舞台となった「中つ国」の地形を、作者としての自分や、自分が生み出したキャラクターの視点を借りたりなど、さまざまな角度から描き出し、そこに漂ってくる雰囲気の中に物語の兆しをとらえていく彼の試みは、先ず何よりも自分自身をとりこにしたのです。
彼は文字通り、生徒からの提出物の採点の合間であれ、家族と過ごす休日の最中であれ、時間も場所も状況もおかまいなしに、時間があけばスケッチにとりかかり、その行為に夢中になっていました。
今週のあなたは、そんな私的な愉しみのために必要とされる半径数メートルの日常を深く掘っていくような、静かで深い愉悦の感覚にすっかり支配されていくようなところがありそうです。
今週のキーワード
往年のダンディズム