てんびん座
息を安らかにできるだけの空間を
バネ入りのビックリ箱
今週のてんびん座は、理想の空間を立体的に浮かび上がらせる遊びのよう。あるいは、十分に息をし、適切な距離をとるために空間を拡張していこうとするような星回り。
双極性障害の当事者の立場から既存の「現実」観に大いに揺さぶりをかけているマルチ・アーティストの坂口恭平は、『現実脱出論』のなかで「現実とは、人間という集団が作り出した『生き延びるための建築』」なのだと述べた上で、集団的な動きやすさに寄せて作られた現実を生きづらいものと感じる個人は、「現実」を自分なりに改変することで、少しでも生きやすいものにしてみてはどうかと提案しています。
新しい空間をつくるということは、古い家を壊して、新築の家を建てることではないと僕は思っている。固まり、変容することがないと誰もが了解してしまった現実という空間に揺さぶりをかけて、見えない振動を起こし、バネ入りのビックリ箱のように新しい空間を飛び出させること。それこそが、僕が幼いころにやっていた「空間をつくる」という遊びだ。
ここで坂口が大切にしているのは、「現実」を変えようと闇雲に行動していく代わりに、創造的改変へと向かうためにいったん立てこもる「思考という巣」をもつことであり、「クルクルっと巻かれて現実の隙間にそっと隠れる」ことのできるような、目に見えない空間を確保していくことなのだと言います。
5月23日にてんびん座から数えて「サバイバル」を意味する3番目のいて座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、現実の背後にそうした目に見えない「思考の巣」をいかに作り出していけるかということを、自分なりに追究してみるといいかも知れません。
ごく自然な帰結
現代の詩人・最果タヒはイラスト詩集『空が分裂する』のあとがきで、自身が詩を「なんとなく、書き続けてきた」経緯について、次のように振り返っています。
創作行為を「自己顕示欲の発露する先」だという人もいるけれど、そうした溢れ出すエネルギーを積極的にぶつける場所というよりは、風船みたいに膨らんだ「自我」に、小さな穴が偶然開いて、そこから自然と空気が漏れだすような、そんな消極的で、自然な、本能的な行為だったと思う。誰かに見られること、褒められること、けなされること、それらはまったく二の次で、ただ「作る」ということが、当たり前に発生していた。
思い返してみるに、人が何かに“導かれる”とか“生かされる”時というのも、案外こうした感覚に近いのではないでしょうか。そして、坂口の「新しい空間をつくる」とか、現実を書き換えるためにいったん立てこもる「思考の巣」をもつといったこともまた、最果のいう「自然と空気が漏れだすよう」な、自然で本能的な行為であるように思います。
今週のてんびん座もまた、不自然に硬直し、ぎこちなくなった自我がスーっと息を吐いて、呼吸をととのえていけるだけの特別な時間と空間を確保してみるといいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
ただ「作る」ということが、当たり前に発生していた。