おひつじ座
ハミングしようぜ
意味より響きだ
今週のおひつじ座は、デジャ-ヴュについてのと或る会話のごとし。あるいは、言葉やメッセージの意味内容よりその響きに大いに左右されていくような星回り。
イギリスの作家ティム・ウィルスンが書いた長編小説に『教師キャロルの会話』という作品があります。帯には「初めて見た少年の面立ちが彼女に悪夢に引き戻す。戦慄の心理サスペンス!」とあるものの、内容的にはややご都合主義的な展開が続き「戦慄のサスペンス」には程遠いのですが、主人公のキャロルと精神科医が交わしていた既視感(デジャ-ヴュ)について会話に関しては妙に気の利いたことが書いてあったので引用してみます。
「(……)ロマンチックで神秘的なもののように聞こえるのは、フランス語の名前のせいさ。なんでもそうだ」
こういう独断的な言い方に反論してもらうのが、コーフマン博士のもっとも好みとするところだ。で、キャロルは口をはさんだ。「同じ船酔いでもシーシックよりマルデメールのほうがロマンチック?」
「そうさ、シーシックよりはましだ。旅人はマルデメールに苦しみ、日帰りの行楽客はシーシックにかかるのさ」
確かにステレオタイプとしてのフランスには、ロマンティックで、どこか芸術の香りがするといったイメージがありますし、デジャ-ヴュやマルデメールといった言葉も、その響きがまさにそうした“フランスらしさ”を見事に体現しているからこそ世間で珍重されるのであろうあたりは、日本でも英国でも一致しているのかも知れません。
その意味で、10月3日におひつじ座から数えて「他なるものとの接触」を意味する7番目のてんびん座で新月(種まき)を迎えていく今週のあなたもまた、ついつい影響を受けてしまいたくなるような響きにおのずと吸い寄せられていきやすいでしょう。
古代の神の声
トンデモ扱いされることも多いジュリアン・ジェインズの『神々の沈黙─意識の誕生と文明の興亡─』によれば、古代人はバイキャメラル・マインド(二分心)と呼ばれる脳の使い方をしていたのだと言います。
ジェインズが唱えているのは要するに、太古の時代、人間は側頭葉から発せられる「幻聴」に従って生きていたし、その方法論を確立していたが、文字言語の発達により紀元前3000年~紀元前1000年頃にかけて徐々に失われていき、「神の声」は沈黙するようになり、代わりに人類は意識を持つようになったという仮説です。
そして、ジェインズはこの仮説に基づいて、芸能芸術や宗教だけでなく統合失調症などの精神疾患というのは、この側頭葉から「神の声」を再び引き起こせるための“運動”であると位置づけていくのです。こうした一連の主張は、そのすべてを真であるとするにはいささか飛躍がありすぎますが、大枠のところでは古代人の感受していた世界のあり様をかなり生々しく捉えられているように思います。
今週のおひつじ座もまた、小賢しい理屈をこねる理性的自我の主張する説明よりも、内部で鳴り響くノイズや電波をキャッチしていくことに精を出していきたいところです。
おひつじ座の今週のキーワード
「古代の神の声は、ハミングのようだ」