おひつじ座
ろくでなしブルース
嘘も方便?
今週のおひつじ座は、「クヒオ大佐」を名乗った人物のごとし。あるいは、人に希望をもたらすような立ち居振る舞いを大胆に仕掛けていこうとするような星回り。
実在の結婚詐欺師である「クヒオ大佐(本名:鈴木和弘)」は、アメリカ空軍のパイロットを自称するだけに留まらず、母がエリザベス女王の双子の片割れだとか、結婚すれば英国王室から3億円近い支度金がもらえるといった、あまりにも見え透いた嘘を重ねたり、女性に会う時はつねに軍服を身にまとい金髪姿で登場するなど、バカげたキャラクター設定にも関わらず、70年代から90年代にかけ事務員やホステスなど幾人もの女性と実際に同棲・結婚にこぎつけ、合計1億円近くを騙し取ることに成功した伝説的な人物でした。
精神病理学的に見れば、あきらかに演技性や自己愛性などのパーソナリティー障害にあたるであろうクヒオ大佐にまつわる事実を後追いする多くの人間は、なぜ女性たちが彼の正体を見抜けなかったのかと、きっと首をひねることでしょう。
ですが、2009年に公開された映画『クヒオ大佐』などを観ていると、少なくとも騙された女性たちにとっては、彼は抱えていた孤独感や、日常生活における不全感ややるせなさなどを、絶妙に埋め合わせてくれる存在だったということに、しみじみ感じ入っていくはず。
もしかしたら彼女たちは、クヒオ大佐の嘘をうすうす知りつつも、どうにもならない現状を一発逆転的に挽回できる光明として、彼に賭けてみようとしたのかも知れません。
6月6日におひつじ座から数えて「方便」を意味する3番目のふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、酷薄な現実を前にただ黙って立ち尽くすくらいなら、思わず相手や自分がそこにのめり込んでいきたくなるようなフィクションを放っていくくらいの度量の大きさを発揮していくべし。
生霊を放つ
何かを書いたり、人を相手に話したりするということは、そこに言葉が介在するかぎり、その人の一番奥の方に巣くっている生霊(いきすだま)を放ってしまうということであり、普段自分でも忘れている生への恐れや、うわべでは上手に隠しているしがらみや不穏さを巷間へ解き放っていくということに他なりません。
したがって、人を傷つけもすれば、みずからも血を流す行為であり、考えれば考えるほどすれすれの振る舞いと思えてきます。しかもそれを何かしら「芸」として売り出すようなあざとい真似をしている者なら、皆すべからく「ろくでなし」と決まっているでしょう。
でも、そんな業さらしな真似をせずにはいられないのも人間の本性であって、どれだけ嫌気が差そうと毒気にまみれようと、いったんそういう行為に加担してしまえば、もはや元には戻れずのめり込むばかりで、それらの営みと共に生死を超えて往くしかないのです。
今週のおひつじ座も、普段自分のしでかしていることの恐ろしさとむごさを抱えながら、それでも誰かに向けて何かしらを発信していく自分の姿をよくよく見つめ直してみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
業さらしを地で行くこと