おひつじ座
眺めよ、スペクタクルを
更衣のよろこび
今週のおひつじ座は、『御手討の夫婦なりしを更衣』(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、付け加えるのではなく引いて軽くすることで、かえって生命として力強くなっていくような星回り。
ある藩のご家中での出来事。召し使う男と雑用の侍女とが男女の仲になり、ついに2人が密通していることが主の耳に及んでしまった。当時、使用人男女の密通はご法度ですから、
藩の掟として主が成敗しなければならないところを、誰かしらの懇願があって生き延びることができたのでしょう。
そうして晴れて夫婦となって、冬服から夏服への更衣(ころもがえ)を迎えることができた。さながら、一度は失いかけた命をひろって、その新しい命のよろこびを、2人して味わっているかのように。
ふつうに説明しようとすれば長くなってしまうところを、たった17文字で言い表してみせたことが手柄とも言えますが、それを可能にしたのは「なりしを」という措辞でしょう。すなわち、「なりしを」の「し」で過去を表し、「を」でそれを現在へと反転させることで思わぬ力を発揮してみせた訳です。
5月15日におひつじ座から数えて「創造性」を意味する5番目のしし座で上弦の月を迎える今週のあなたもまた、冬服の余計な綿を抜いていくがごとく、自分の身動きを鈍重にしている要素を大胆に取り除いてみるといいでしょう。
有害な仕事と闘うために
哲学者のバートランド・ラッセルは、『幸福をもたらすもの』というエッセイのなかで「この世の有益な仕事の半分は、有害な仕事と闘うことから成りたっている」という極めてリアリストらしい醒めた意見を披露していますが、一方で私心や下心のない心の動きの大切さについても強く説いています(『ラッセル幸福論』)。
いわく、人は自分の利害に関係のあることだけに熱中し、それが人間の活動全体のうちでいかに微々たるものかを忘れがちであると指摘した上で、「知識を身につける機会があれば、たとえ不完全なものでも無視するのは、劇場へ行って芝居を観ないのと同じだ」と述べるのです。
確かにこの世界は、悲劇的かつ喜劇的であるばかりでなく、奇怪な、また不思議な物や事に充ちており、その意味で「世界の提供するこの壮大なスペクタクルに興味を持てない人々は、人生の差し出す特典の一つを失っている」のかも知れません。
今週のおひつじ座もまた、そんなラッセルの助言に従って、差し当たって自分の利害に直結し過ぎている時間や「有害な仕事」をサッと引き算してみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
何かがおかしいはたいてい正しい