おひつじ座
暗い穴に落ちる
重みのある宝飾品のように
今週のおひつじ座は、神殿の聖所での「泥睡」のごとし。あるいは、自己治癒的な夢のなかにうずもれていくような星回り。
古代ギリシャのアスクレピオス神殿では、病の治癒の祈願にやってきた人々に、眠りによる自然治癒が推奨されていました。
松村栄子の小説のタイトルともなった『至高聖所』は、そんなアスクレピオス神殿の一番奥にある聖所を意味する「アバトン(ἄβατον)」の直訳であり、小説内には「眠りはいつもジュエリー・ケースに施された絹の内張りのようになめらかで、わたしは重みのある宝飾品のようにすとんと心地よくその中に落ちた」という描写が出てきます。
「泥のように眠る」という慣用表現もあり、こちらはやわらかい泥の中にずぶずぶと入っていくような感覚を表しますが、先のジュエリー・ケースの喩えは「すとん」というなめらかなオノマトペが効いて、肌に優しく吸い込まれるような感覚を想起させてくれます。
「ああ、夢を見ている」と自分で思いながらも、重力に逆らえず夢の中に吸い込まれていく。神殿の聖所で見る夢には、しばしば神が現れて治療を施し、目が覚めた時には治癒していたという伝承がのこっていますが、きっとそんなときに見る夢は、泥酔ならぬ「泥睡」のごとき深い眠りだったのではないでしょうか。
そして、2月3日におひつじ座から数えて「小さな死」を意味する8番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、夢見たことをヒントにするべく、できるだけ眠りの質を高めていきたいところです。
「治す」より「治る」
現代人は不可解で残酷な事件が起こると、すぐに「うかがい知れぬ心の闇」と言って思考停止してしまいますが、今のあなたにはその神殿の長い回廊のごとき闇をとぼとぼと歩き続けていく気概はあるでしょうか。
人を殺すにしろ、自分を殺すにしろ、人間は日々いろんなことを考えながら生きています。しかし、その考えの多くは、本当の考えを考えないためのものであって、そういう安全に生きていくための明かりやキラキラをあえて無視して、闇の中を歩ききったとき、なぜだか病んでいた心が不思議と治っていたりすることがあります。
自分の孤独だけが特別だと思い込んで、そこに囚われると、人は自壊していきますが、孤独の中に溶け込んで、取り入れていく人は回復する。そういう回復の道は、いつだって真っ暗闇で、そんな道を行こうとすると、世間からは気が狂っているなどと言われる。でも、それでいいのです。今週のおひつじ座もまた、そんな回復の道をこそ選んでたどっていくべし。
おひつじ座の今週のキーワード
闇をとぼとぼ