おひつじ座
脳髄がスパーク
きっかけとしての五感の目覚め
今週のおひつじ座は、『花は木を讃へ泰山木ひらく』(柘植史子)という句のごとし。あるいは、これまでとは少し違った出会いをきっかけに何かが開けていくような星回り。
「泰山木(たいさんもく)」は、白木蓮に似た白い大きな花を咲かせる初夏の季語で、通常は樹上高くに咲き、人間の目線のはるか上で天に向かって芳香を放っているもの。
ところが、掲句ではおそらく登山か何かの折に、思いがけず目の前にその花があらわれ、同じ目線から圧倒的な芳香を浴びた。その瞬間を詠みあげようと作者に思わせたのは、いつも裏側から見上げるものだった泰山木の花が、直接的に嗅ぐべき何かとなったことによって引き起こされたある種の違和感であり、それによって全感覚が強く刺激されたのでしょう。
そうして生ぬるい風のなかに漂う、濃厚な甘い香りに誘われてこの樹木と対峙したとき、作者はこんな見事な花をつけたことを、花は幹や葉や根に感謝しているに違いないと直感し、心が動いた。ここでは日常において感覚的偏りとして潜んでいた俳句の萌芽が、偶然の嗅覚体験をとおして、一気に覚醒していったのだとも言えます。
つまり、気づきのきっかけは感覚の覚醒にあり、それは常日頃の過ごし方からすでに始まっている、と。その意味で、6月4日におひつじ座から数えて「気づき」を意味する9番目のいて座の満月に向け月が膨らんでいく今週のあなたもまた、いつも以上に深い呼吸を意識して過ごしていくべし。
それは「稲妻」のように起こる
エスキモーのシャーマンから聞き取った話によれば、「コウマネク」とはシャーマンが突然体内に、頭の中に、脳髄の中心に感じる神秘の光、名状しがたい灯台、ないし輝きわたる火のことで、それが彼に暗闇の中でも何かを見ることを可能にしてしまうのだそうです。
それはまるで、彼の座っている小さな部屋が突然もちあがり、周囲がそっくり大平原へと変わり、眼前はるか遠くまで景色が広がり、その視線は山々を越えて大地の果てまで達するかのように感じられる。もはや彼の前方に隠れているものは何もない。それは遠くまで見えるというだけでなく、盗まれたものやかつて見失ってしまったものを発見することもできるようになるのだとか。
こうしたピーク経験は長い準備の末の成果でありながら、突然「稲妻」のように起きるのが特徴で、ある種のアハ体験とも言えるように思います。闇を引き裂く雷の突然の爆音と閃光は、世界を変貌させると同時に、魂を聖なる恐怖で満たすのであり、それを生き延びた者は、新しい人となり、新しい生活を始めるのです。
同様に、今週のおひつじ座もまた、一時的にであれ見えないものを見ていく瞬間が訪れるかもしれません。
おひつじ座の今週のキーワード
闇を引き裂き走る稲妻を念じるべし