おひつじ座
得体の知れない存在になっていく
不可避で自然な変身
今週のおひつじ座は、男女の境界の上で揺れ動いた『オーランドー』のごとし。あるいは、性的な結びつきより友愛的な結びつきを大事にしていこうとするような星回り。
ヴァージニア・ウルフが小説『オーランドー』で表現しようとした両性具有的な人間は、もともと1つだった身体が二分されて男女が互いを求めるようになったというプラトン的発想ではなく、オーランドーというひとりの登場人物に「男」の前半生を生きさせた後で、身体を「女」に変身させ、戸惑い混乱する時期を経て内面が少しずつ両性具有的になっていくというプロセスを描いています。
いわば、作者のウルフのなかにオーランドーの内面が入れ子式に展開されていく訳です。女性になってからのオーランドーは、徐々にそれまで入れ込んでいた中性的女性サーシャへの独占欲がうすれ、代わりに紳士階級の冒険家シェルマディーンと接近していきます。それは性的な結びつきというより、友愛的な絆に近いものでした。
彼が「枝と枯葉と蝸牛の殻ひとつかふたつで地面にホーン岬の模型を作」り、オーランドーに「これが南。風がここら辺から吹いてくる」という具合に、その冒険譚を聞かせると、オーランドーがあまりに深く理解するので、シェルマディーンは思わず「君はほんとうに男じゃないの?」と訊き、すると今度はオーランドーが「あなたが女でないなんて信じられない」と答えるのです。おそらくこうした描写のベースには、ある程度はバイセクシャルであったウルフ自身の実体験があったのでしょう。
1月15日におひつじ座から数えて「対等な関係性」を意味する7番目のてんびん座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自身を特定のジェンダーからどうしたら解き放ち、ゆるやかにそれを受け入れていけるかを模索してみるといいでしょう。
片目の面
大分県の国後半島にある岩倉八幡社では、毎年旧暦9月14日に「ケベス祭」と呼ばれる起源も由来も不明の火祭りが行われます。火が焚かれた海沿いの神社の拝殿で、神官が祝詞をあげるなどした後、クジで選ばれた地元の男性が白装束た仮面を身につけ準備が整うと、神官が彼の背中に指で何かの文字を書いてから思いっきり叩くと、仮面をつけた青年は何かに導かれるようにして立ち上がり、「ケベス」となる(これを「入魂」というらしい)。
拝殿から境内に出ると、ケベスは円を描きながらゆっくりと群衆の前を練り歩き、やがて突然止まったかと思うと、燃えさかる焚き火に向かって全速力で走り出す。これを阻む「トウバ」という役の男たちがいて、ケベスとトウバの1人は焚き火の前で一進一退の攻防を幾度となく繰り返すのです。9度目でついに突入に成功すると、ケベスは棒でシダの山をかき回し火の粉を散らすと、その後はトウバも火のついたシダを持って境内を走り回り、参拝者を追い回す。この際に火の粉を浴びると無病息災になるのだそうです。
なお、このケベス面は目の位置が微妙にずれていて、面をつけると片目にしか見えない状態になるのだそうですが、神話の世界において“越境者”は片腕や片足がないなど、身体の一部が不自由なことが多いですから、ケベスはまた「越境者」の一種であり、人間でも化け物でもあるような得体の知れない何かなのでしょう。
今週のおひつじ座もまた、そんな奇祭でクジに選ばれた青年のごとく、得体の知れない何かに導かれ、善悪を超えていくことになるかも知れません。
おひつじ座の今週のキーワード
「ケベス」はヘブライ語で「子羊」の意