おひつじ座
人間らしく在り続けるために
アーレントの予見
今週のおひつじ座は、「理想的な被統治者」であることへの対抗。あるいは、分かりやすい虚構の代わりに複雑に入り組んだ事実に向き合っていこうとするような星回り。
ロシアが世界の無関心を頼みにウクライナ侵攻へと踏みこんだことを考えると、1951年に刊行された『全体主義の起源』におけるハンナ・アーレントの次のような記述は、まさに今日の政治状況を予見したものとも言えるでしょう。
全体主義支配にとって理想的な被統治者は、筋金入りのナチス信者でも筋金入りの共産主義者でもなく、事実と虚構の区別(つまり経験の現実性)も真と偽の区別(つまり思考の基準)も、もはや存在しないような人びとなのだ
アーレントはさらに、このような人びと(大衆)は、「すべてを信ずると同時に何も信じず、あらゆることが可能であると同時にあらゆることが不可能であると考える」のだと続けた上で、これを「軽信とシニシズムの同居」と言い表しています。
今日の世界情勢においてロシアが利用しているのも、単に騙されて嘘を信じている人々と言うよりも、むしろ事実と虚構の区別事自体を放棄してしまっている大多数の人間であり、だからこそ、いくらファクトチェックをしても彼ら/彼女らに何ら抑止する効果を持つことができない訳です。そうした人びとにとって事実の代わりになるのは、「〇〇がすべて悪い」といった単純明快で首尾一貫した説明(虚構)であり、彼らにとっては複雑に入り組んだ現実よりもそちらの方がよっぽど現実的に感じるのではないでしょうか。
11月1日におひつじ座から数えて「新しいつながり」を意味する11番目のみずがめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、あなたを従順で支配しやすい被統治者にしたがるつながりから脱して、いかにそうではない新しいつながりへと移行できるかが問われていくことでしょう。
人として大きくなったつもりでいよう
人は努力している間は迷うに決まっているものだ
精神の意志の力で成功しないような場合には、好機の到来を待つほかない
死を考えても、私は泰然自若としていられる。なぜなら、われわれの精神は、絶対に滅びることのない存在であり、永遠から永遠に向かってたえず活動していくものだとかたく確信しているからだ
例えば上の3つのようなセンテンスの組み合わせは、ゲーテの言葉がいかに健康的かということを端的に表しているように思います。
それはある種の鈍感さとも言えるものですが、ゲーテというのはどこか人間を自然の一部として大きな視点から見ているようなところがあるのです。
だから読んでいると、自然と自分も大きくなったような気がしてくる。でもそれでいいんです。人として小さくなった気がするより、ずっといい。今週のおひつじ座もまた、そんなゲーテの健康的な鈍感さをぜひとも見習っていきたいところ。
おひつじ座の今週のキーワード
泰然自若