おひつじ座
危うさを自覚するがゆえに
簡単な顔と複雑な顔
今週のおひつじ座は、『昼寝の子簡単な顔してゐたる』(若杉朋哉)という句のごとし。あるいは、削り合うのではなく和み合えるような関係を選んでいこうとするような星回り。
昼寝をしている子の、そのわだかまりのない寝顔を「簡単な」でたやすく片付けるその表現の妙は、平明ではありますが決して平凡なものではありません。
今のような生きづらい世の中では、つねづね言葉に言い表せないような苦々しさやぶつけ先のない怒りを湛えては、少しずつ私たちの顔は歪み、曲がり、ひしゃげ変形し、複雑な造形へと変貌し続けているようなところがありますから、余計に「簡単な顔して」ただこの世に「ゐたる」ことの尊さということが際立って感じられるのでしょう。
おそらく、作者が平明と平凡の紙一重の狭間を攻めることができたのも、そうした実感が大いに関係しているのではないでしょうか。そして、読者は掲句を読むことを通じて、自身の顔がいつの間にか「複雑な顔」になってしまっていることに思い至るはず。
7月7日におひつじ座から数えて「他人の顔」を意味する7番目の星座であるてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分がこれからも顔を突き合わせ、寄り添っていきたいと思えるような「顔」をきちんと選択していくべし。
曹植の「野田黄雀行(やでんこうじゃくこう)」
魏の曹植(そうしょく)は、三国志の英雄である曹操(武帝)の息子のうち最も詩人としての才に優れた人物でした。ただ、帝位を継いだ兄の曹丕(文帝)とは仲が悪く、この楽府(民間歌謡ふうの歌)は危険を感じている自分の身を野のスズメに託して歌ったもの。
その冒頭は「高樹 悲風多く 海水 その波をあぐ」から始まるのですが、これは裏返せば低い樹には激しい風は吹かず小さな池には波風立たぬ、ということになり、作者の今いる状況の危うさ、厳しさを象徴しており、この状況の中で一羽のスズメが登場してきます。
見ずや籬(まがき)のあいだのスズメの、タカを見てみずから羅(あみ)に投ぜしを
羅せる家(ひと)はスズメを得て喜び、少年はスズメを見て悲しむ
剣を抜きて羅綱(あみ)をはらえば、黄雀(スズメ)飛び飛ぶを得たり
飛び飛びて蒼天を摩(ま)し、来たり下りて少年に謝す
剣を抜いた羅綱(あみ)を斬り払ったのはむろん少年であり、スズメ=作者は自分を助けてくれる存在=少年の出現を待ち望んでいたのかも知れません。同様に、今週のおひつじ座もまた、自身の危うさを祓ってもらう展開にこそみずから身を傾けていくべし。
おひつじ座の今週のキーワード
自分が救ってあげる側だと思っている対象にこそ、逆に救われていく