おひつじ座
改めて人生が始まっていく
地下水をくみ上げる
今週のおひつじ座は、『地下水のやうなかなしみリラ満ちる』(田中亜美)という句のごとし。あるいは、かなしみが出口の方から誘いだされていくような星回り。
「リラ満ちる」のリラは、毎年4月頃に紫の小さな花を樹上にたくさん咲かせるライラックの別名で、その花言葉は「思い出」。人は誰しも自分でも気付かないところで生きるかなしみを湛えているものであり、それがある日何かをきっかけにして、うつわから溢れ出すように心の表面にさざ波を立てたとき、やっと自分が長いことかなしみをため込んでいたことを自覚するものです。
そうして「地下水のやう」にため込まれ、長い時間をかけてこころを侵食してきたかなしみを、香り豊かでどこか涼やかな印象を与えるリラの花が、まるで誘いだすようにあたりの空間を満たしていたのでしょう。
「かなしみ」というと、何かネガティブなことのように思われる人もいるとは思いますが、人は「かなしみ」を深く体験することを通して初めて、みずからの人生を真の意味で始めていけるのだと思います。ただ、あまりに過酷な真実をじかに受け入れることはなかなかできることではありませんから、必ず思い出や時間の隔たりを介して体験していくことになります。
その意味で、4月13日におひつじ座から「全体の調整」を意味する12番目のうお座で木星と海王星が重なっていく今週のあなたもまた、今このタイミングでなら受け入れられるであろう自身の過去やその背景に横たわるかなしみを実感していくことができるかも知れません。
気が狂ったと思われてもいい
過去や背景との対峙と言えば、明恵(みょうえ)という鎌倉時代の高僧の有名なエピソードに、島に手紙を出した話がありました。しかもラブレター、宛て名は「島殿」。
これは和歌山県にある「苅磨(かるま)の島」のことらしく、もともと明恵が子どもの頃によく遊びに行っていたそうで、ある時にその島の桜の大木を思い出して、いてもたってもいられなくなって手紙を出したのだそうです。
こんな風に書くと、ずいぶん酔狂なはぐれ者もいたものだな、と思われるかも知れませんが、当時の明恵はたくさんの弟子をもつそれなりの高い地位にあり、島などへ手紙を出したとなれば気が狂った人間だと批判されることは大いに承知していたようです。それでも、「仏心を学ぶに、人界だけでなく自然を友として何の咎めがあるか、もはや自分は気が狂ったと思われてもよい」と、そう思い定め、やっとの思いで手紙を出したのだと思います。
今週のおひつじ座もまた、和解すべき何かがそこにあると感じたなら、まず自分の方からこころを開き、手を差し出していくくらいのつもりで過ごしていくべし。
おひつじ座の今週のキーワード
和解、すなわち大いなる水の循環を思うべし