おひつじ座
うずき、ほどく
ふところの熱
今週のおひつじ座は、『好きなものは玻瑠薔薇雨駅指春雷』(鈴木しづ子)という句のごとし。あるいは、ふところで熱をもってうずいているものを、指し示していくような星回り。
作者は戦後の混乱期に彗星のように現われ、消えていった女性俳人。掲句はその20代最後の作品で、「玻瑠(ガラスないし水晶)」「薔薇」「雨」「駅」「指」「春雷」など、いずれも文学少女的な嗜好が強く現れた語を並べたもので、美しいものへの憧れを強く持つ少女趣味の延長とも言える世界で、一見してそこに特別な印象は受けません。
しかし、掲句が収録されている句集のタイトルである『指輪』とセットとなっている「指」という語に着目してみると、「雨」や「駅」、「春雷」などの他の語と違って、この「指」だけが唯一、肉体性を伴ったなまなましさを持っており、そこに作者がさりげなく自身の真実を託したのではないかと解釈しても、それほど的外れではないでしょう。
たとえば、同句集に収録されている「欲(ほ)るこころ手袋の指器に触るる」、「花の夜や異国の兵と指睦(むつ)び」などの句に目をやると、当初はみずからのふところで熱を持ちながらも、うずうずしていた指が、やがて大胆に動き出し、愛の架橋を実現する役割を果たしていることが分かります。
4月1日に自分自身の星座であるおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした繊細さと大胆さのはざまで揺れ動いていくことになるはずです。
自己愛をほどいていく
『愛という病』というエッセイ集において、中村うさぎは「女性とは何か?」が分からないのだと言いつつも、次のように綴ってみせます。
「女の病」とは、畢竟、ナルシシズムの病なのである。女のナルシシズムは、他者の愛によってしか満たされない。それは女が自分を「他者の欲望の対象」として捉える生き物だからである。女は他者の欲望を求めることによって自己を確立し、同時に、他者を無化するモンスターなのだ。
思わず血しぶきが見えるような文章ですが、実際、中村はダメ男にハマってしまう女、腐女子、女を出すことに恥を覚える女など、多くの女性たちを観察し、その度に、なぜ女性は「愛し愛される事」に固執するのか?他のすべてに充足していても「愛し愛される相手がいない」という1点の欠落だけで自分を価値のない存在のように感じてしまうのは何故なのか?と問いを繰り返していく。そして、不意に「これさえ解ければ、女たちは今よりずっとラクに生きられるような気がするのだ」と自身の思いの丈を吐露してみせるのです。
ジェンダーレスが叫ばれ、社会的な意味で「女」というものが複雑になって、よくわからなくなっている昨今だからこそ、彼女の試みはますます重要性を増していますし、一方の男性だって、今まで女性が苦しんできた「生きづらさ」に、すでに苦しみ始めているように思います。
今週のおひつじ座もまた、中村のような過激さを伴なうかはともかく、自分への愛というもつれた糸を、他ならぬ自分自身の手で、指でほどいてみるといいでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
「愛されたい」という思いと「愛したい」という欲求のせめぎあい