おひつじ座
暗いところで光を探す
こちらは8月16日週の占いです。8月23日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
絶望してこそ生き延びられる
今週のおひつじ座は、北条民雄の小説『いのちの初夜』のやりとりのごとし。あるいは、苦しむためには才能がいるのだということを改めて実感していくような星回り。
昭和11年に発表された「いのちの初夜」は、当時23歳だった作者の北条民雄が実際にハンセン病施設の全生病院に入院した最初の1日の出来事を材料に書かれた小説です。
それまで自由に行動していた主人公の尾田は、入院とともに社会での足場を失い、身体が変形し、崩れ落ちたかのような重症患者の姿を、みずからの未来を先取りするものとして見せつけられたことで、絶望が一挙に押し寄せ、自殺を企てるものの失敗します。
そして、そんな尾田の挙行の一部始終をじっと観察していた先輩患者である左柄木という人物が、尾田に対して次のように語りかけるのです。
「僕思ふんですが、意志の大いさは絶望の大いさに正比する、とね。意志のない者に絶望などあらう筈がないぢやありませんか。生きる意志こそ源泉だと常に思つてゐるのです。」
16日におひつじ座から数えて「底力」を意味する8番目の星座であるさそり座で上弦の月を迎えていくあなたもまた、再び立ち上がるための力を内部に蓄えていくべし。
自己内対話の比喩として
先の呼びかけに続けて、左柄木は次のようにも語っていました。
「尾田さん、きつと生きられますよ。きつと生きる道はありますよ。どこまで行つても人生にはきつと抜路があると思ふのです。もつともつと自己に対して、自らの生命に対して謙虚になりませう。」
いったん眠った尾田は、悪夢にうなされて目が覚めます。そこで再び左柄木が重症患者の指し示しながら、あの人たちと同じように、自分たちの「人間」つまり、これまでの自分はもう滅びつつある代わり、それを引き受けることができたとき、不死鳥のように甦るのだ、「新しい人間生活」は始まるのだと訴えかけます。
そうして、この小説は最後に二人が夜明けの太陽を迎えるところで終わるのですが、左柄木が言っていた「苦しみの蓄積の引き受け」というようなことは、医者の立場からはまず促すことのできないものでしょう。そう、あくまで、自分で自分の言葉を聞きながら、うなづいていく中でしか掴み取ることのできないものであるように思います。
今週のおひつじ座もまた、尾田ほどではないにせよ、苦しいところでいかに自己内対話を深めていけるか、不死鳥になれるかが少なからず問われていくことでしょう。
おひつじ座の今週のキーワード
「きつと生きられますよ。きつと生きる道はありますよ。」